生物系特定産業技術研究支援センター

(c022)一番茶の海外輸出を可能とする病害虫防除体系の構築と実証

事業名 革新的技術開発・緊急展開事業(うち地域戦略プロジェクト)
実施期間 平成28年~30年(3年間)
研究グループ
(研究終了当時)
農研機構果樹茶業研究部門、静岡県農林技術研究所茶業研究センター、京都府農林水産技術センター農林センター茶業研究所、福岡県農林業総合試験場八女分場、宮崎県総合農業試験場茶業支場、鹿児島県農業開発総合センター茶業部
作成者 農研機構植物防疫研究部門 佐藤安志

1 研究の背景

日本再興戦略(2013年閣議決定)で掲げられた日本茶の輸出目標(2020年までに150億円)達成のためには、輸出相手国の厳しいに残留農薬基準値(MRL)に対応することが不可欠である。一方、我が国の茶産地では産地の特徴を活かした様々な茶種(煎茶や碾茶・抹茶など)向けの茶栽培が行われており産地により輸出想定国も異なっている。

2 研究の概要

全国の茶産府県(静岡、京都、福岡、宮崎、鹿児島)に設置した実証チームで、それぞれの産地に適した輸出想定国向け・茶種別の病害虫総合防除体系(輸出相手国のMRLに対応できる体系)を構築・実証する。これにより、主要茶産地における輸出用茶葉の安定生産体制を確立し、国が定めた輸出目標達成に貢献する。

3 研究期間中の主要な成果

  • 全ての実証チームが、それぞれの地域戦略で想定した輸出相手国のMRLに対応できる病害虫防除体系を構築し、その実用性(各種病害虫の防除効果)と輸出適合性(相手国のMRLをクリアできること)を実証・検証した。
  • 全ての実証産地で実証・検証結果を基に「輸出向けの病害虫防除暦」等を作成し、成果の普及・産地実装を開始した。

4 研究終了後の新たな研究成果

  • 鹿児島県では、米国輸出向けかぶせ茶、煎茶栽培用の病害虫総合防除マニュアル等を作成した。また、米国輸出対応防除暦を地域の慣行防除暦とする取り組みを開始した。
  • 福岡県では、EU、台湾向けに加えて、米国、香港輸出向けの防除暦も構築した。また、八女地域(中山間地)の慣行防除暦を米国等向け防除暦とする取り組みを開始した。
  • 「輸出相手国のMRLに対応した茶の総合防除体系」を全国の茶産県に横展開し、ほとんどの茶産府県(18/19府県)で、府県やJA、民間等の普及・指導機関等が推奨され、防除暦や防除指導等で普及・実装した(2020年12月現在)。

5 公表した主な特許・品種・論文

佐藤安志.海外輸出を可能とするチャ病害虫の防除体系.茶72(9), 22-27 (2019).
*5府県の担当者が、静岡、京都、福岡、宮崎、鹿児島の成果を紹介(連載) 茶72(10) (2019)~73(2) (2020)

6 開発した技術・成果の実用化・普及の実績及び今後の展開

(1) 実用化・普及の実績

  • 「輸出相手国のMRLに対応した茶の総合防除体系」は、日本のほぼ全ての茶産県(18/19府県)の府県やJA、民間等の普及・指導機関等で推奨され、防除暦や防除指導等を通じて普及・実装済み(2020年12月現在)。
  • 輸出向け茶葉生産を行う府県が茶生産府県の9割までに拡大(2020年12月現在)。日本茶の輸出額は2018年に153億円に到達(財務省貿易統計)。2年前倒しで当初目標を達成した。

(2) 実用化の達成要因

開発技術の迅速な産地実装を図るための府県の普及・指導体制を取り込んだ各「実証チーム」が機能したため。また国の輸出促進戦略や府県の地域戦略を基にしたバックキャスト型の課題設定により、産地ニーズに合わせた成果が得られたため。

(3) 今後の開発・普及目標

日本茶輸出に関する新たな政策目標(「輸出拡大戦略」;2025年の輸出額 : 312億円、輸出量 : 1万トン、2030年の輸出額 : 750億円、輸出量 : 2.5万トン)に対応するため、ボリュームゾーンである二番茶・秋冬番茶の輸出も可能とする輸出対応型病害虫防除体系を開発し(「国際競争力強化技術開発プロ」 ; 令和3~5年)、全国茶産地への実装を図る。

7 開発した技術・成果が普及することによる波及効果及び国民生活への貢献

「輸出相手国のMRLに対応した輸出対応型IPM体系」は、他の輸出向け青果物等にも拡大(横展開)し、安心・安全な日本の農産物の輸出促進に寄与した。なお、令和3年度より、農水省「茶・薬用作物等地域特産作物体制強化促進事業」で「輸出向けの栽培体系への転換」が補助対象となっている。