生物系特定産業技術研究支援センター

(c105)カラマツ種苗の安定供給のための技術開発

事業名 革新的技術開発・緊急展開事業(うち地域戦略プロジェクト)
実施期間 平成28年~30年(3年間)
研究グループ
(研究終了当時)
北海道立総合研究機構、青森県産業技術センター、岩手県林業技術センター、群馬県林業試験場、山梨県森林総合研究所、長野県、岡山県農林水産総合センター、宮崎大学、北海道山林種苗協同組合、株式会社雪屋媚山商店
作成者 森林研究・整備機構森林総合研究所林木育種センター 高橋誠

1 研究の背景

カラマツは国内の造林用針葉樹の中で優れた材質特性を有し、構造用材としての需要が高まったが、全国でカラマツ苗木が不足している状況であった。プロジェクトに参画した6道県のカラマツ人工林は全国の約9割を占め、これらの地域では年間約250万本の苗木が不足していた。カラマツ資源を保続しつつ、林業で利用していくためには、苗木、あるいはその元となる種子の生産拡大が必要であった。一方、カラマツは豊凶が著しく、着花促進技術の解決も不可欠であった。

2 研究の概要

花芽形成促進、種子生産、苗木生産の各段階において課題解決に向けた技術開発を実施した。花芽形成段階では、物理的刺激、受光伐等により雌花の着花量を増大させることができた。種子生産段階では、本州では9月1日頃、北海道では9月10日頃に球果を採取すると充実種子の生産効率が高く、高所作業車を用いることで球果の採取効率が高められた。苗木生産段階では、カラマツのさし木増殖が可能となり、グルタチオンの施用により、増殖効率が高められた。北海道ではグイマツ雑種F1のさし木増殖の律速要因を明らかにし、その成果を講習会等を通して普及した。

3 研究期間中の主要な成果

  • 物理的刺激処理の一つの環状剥皮処理は、処理翌春の着花量を増大させる方法として有効であり、特に凶作から並作が多い採種園において2倍以上の花芽形成の促進効果があった。
  • カラマツの種子の発芽率を高めるためには、本州で9月上旬、北海道各地で9月中旬に採種することにより、全体的に種子の発芽率を1.3倍に高めることができた。
  • 本州では、カラマツ実生苗からさし木増殖することによって、平均6.9本の山行苗を生産する技術を開発した。また、高機能肥料であるグルタチオンを施用することで、さらに生産効率が向上した。

4 研究終了後の新たな研究成果

環状剥皮処理の段数が多いほど、着花の高い個体の割合が高まり、受光伐や樹型誘導処理による光環境の改善によって、さらにその割合が高まり、クローンによるばらつきも少なくなった。

5 公表した主な特許・品種・論文

Matsushita, M. et al.Effects of light intensity and girdling treatments on the production of female cones in Japanese larch (Larix kaempferi (Lamb.) Carr.): Implications for the management of seed orchards.Forests, 11,1110; doi:10.3390/f11101110(2020)

6 開発した技術・成果の実用化・普及の実績及び今後の展開

(1) 実用化・普及の実績

  • プロジェクト終了後は、全国の採種園で環状剥皮処理3か所、受光伐処理2箇所、樹型誘導処理2箇所で実施された。また、2箇所で高所作業車による採種が行われた。
  • 長野県と群馬県では林業種苗法の細則を改正し、9月1日以降から種子を採取することになった。
  • 北海道山林種苗協同組合は、2019年7月から2021年8月に、苗木生産17業者に対して、グイマツ雑種F1のさし木の技術指導講習会を合計5回開催した。その結果、得苗本数が75%向上した。

(2) 実用化の達成要因

林業研究・技術開発推進ブロック会議育種分科会や特定母樹等普及促進会議等の会議、技術研修会等を通じて道県庁、試験研究機関から苗木生産者や採種業者等への普及する体制が整っていたことや、国による採種園整備への補助があったためと考えられる。

(3) 今後の開発・普及目標

北海道のグイマツ雑種F1では、令和18年度に、さし木苗の生産本数を年間140万本とする目標を設定している。

7 開発した技術・成果が普及することによる波及効果及び国民生活への貢献

種子の増産により、カラマツの再造林が進む。苗木生産者は苗木の安定的な生産や増産が可能となり、苗木生産者の収益の安定化・増加に貢献しうる。将来的には資源の安定供給に寄与し、カラマツ林業・林産業の活性化に資する。