生物系特定産業技術研究支援センター 研究資金業務

異分野融合研究支援事業

2008年度 事後評価結果

植物由来のディフェンシン蛋白質を利用した新規抗菌剤の開発

技術コーディネーター

川田 元滋((独)農研機構作物研究所)

研究参画機関

  • (独)農研機構作物研究所
  • (独)農研機構中央農業総合研究センター
  • 新潟薬科大学
  • クミアイ化学工業株式会社
  • ケイ・アイ化成株式会社

総合評価

当初目標を達成

コメント

植物源蛋白質資材(ディフェンシン)を新たな抗菌性資材として活用しようとしたもので、今までにない新規性は認められる。特に、今日、「食の安全・安心」のスローガンの下、合成化学資材以外の新たな資材、手段が希求されている状況下では、大いに期待されるものであった。

本研究により、ディフェンシンまたは本研究で見つかったディフェンシン様物質を用いた抗菌剤、医薬品、農薬事業の創出へ大きく前進したと考えられる。例えば、ディフェンシンの用途については、成果を達成し、その一部は「藻類防除剤及び藻類防除方法」の発明として特許出願されている。また、ディフェンシンの作用機作について、細胞膜内のグルコシルセラミドにディフェンシンが作用することにより、膜電位の脱分極、活性酸素種の蓄積が誘導され、生育阻害が生じるとのモデルを提唱するなど新しい学術的成果を達成した。

一時、酵母(Pichia)の生産するディフェンシンは活性が低く活性型蛋白質が生成しないのではないかとの疑念が生じたが、これはN末の1残基(グルタミン)がプロテアーゼにより切断されたためで、培地のpHを下げると切断が防止できることを明らかにし、問題を解決した。その結果、Pichia用最終型発現ベクターの構築と1000mg/L以上の生産性を達成した。この過程で、還元型合成ディフェンシンのリフォールディングと高次構造形成法を基礎的に研究、確立したが、これらの成果は大いに評価される。

さらに、天然抗菌剤の産業的利用については、ディフェンシンがヒト病原性のカンジダ症の原因菌であるCandida albicansを標的微生物とすることを見出し、医薬品としての可能性が示唆された。安全性評価試験では、急性毒性、皮膚刺激性、眼刺激性をはじめとする農薬用途向け試験に着手し、現時点で実用化の判定資料を提供した。

研究の進捗状況では、その産業創出に至るまでの道程のうち、実用的生産レベルでの生産・精製システムが確立され大量生産の道は開かれた。しかし、その成果の遅れが数多くの生物試験、毒性試験等の商品化に向けた必須事項の遅れに繋がった。今後の発展的な研究継続が望まれる。