生物系特定産業技術研究支援センター 研究資金業務

異分野融合研究支援事業

2010年度 事後評価結果

最先端クルマエビ養殖技術の構築-安全・安心・健康なエビを作る

技術コーディネーター(所属機関)

酒井 正博(宮崎大学農学部)

研究参画機関

  • 宮崎大学農学部
  • 宮崎大学工学部
  • 鹿児島大学
  • 株式会社九州メディカル

総合評価

優れている

講評

本研究は、クルマエビのホワイトスポット病原因ウイルスに対するワクチン及び高感度検出法を開発し完全閉鎖循環式飼育システムによるウイルスフリー親エビの生産手法を確立すること、その育成・性成熟促進飼料を開発すること及びクルマエビの消化管内細菌叢のプロバイオティクスを主成分とする新規バイオ飼料を製品化することを目標とした。その結果、親エビの育成、産卵、飼育システム、抗病性向上のための配合飼料が開発され、クルマエビをウイルスフリーの状態で完全養殖するシステムが構築され、産業としての成立の見通しがついた。
無脊椎動物では世界初となるDNAワクチンを開発し、3000株に近いエビ消化管内細菌ライブラリーを構築した。学術的には原著論文を32編公表し、そのうち6編が魚病及び水産分野においてトップクラスの雑誌に掲載されており質も高い。内容についても新規性があるものが多く、当該分野の研究に大きな影響を与えている。技術開発では、知的財産権の出願数が多く、製品化に繋がるなど貴重な成果が得られ、十分な内容であった。費用対効果については、技術開発の成果と実用化が結びつき、投入された費用に対して高い成果が得られた。
ただし、コスト面の強化や技術移転の具体化などの課題が散見される。実用化に至らしめるには、経済的な側面から、より具体的な試算結果を示す必要があろう。
ところで、今回の成果は、これまでの養殖様式を大きく変えることを示唆する技術開発であり、一種の産業革命に繋がる可能性がある。海産魚介類給餌養殖業では、従来、環境汚染を引き起こすことが多く、細菌やウイルス感染への危険があるため、循環水槽式養殖は必須と言えた。本養殖法の確立は、世界の水産養殖業にも応用が可能で、広く利用されるものと期待している。特に、閉鎖循環式養殖システムにおいて、ワクチンの開発は必須であったことから、この点の評価は高い。また、新規のバイオ飼料が本事業終了後販売を開始することは素晴らしい成果であり、エビの安全性向上にとって重要であり、配合飼料メーカーに対して事業創出を促すものである。さらに、本研究の研究手法及び成果は、他のエビ類で世界的に養殖されているが、絶えず病気の問題に直面している種にとっても今後の方向性を示すものであり、生物系産業への波及効果は国内のみならず、世界的にも計り知れない。