生物系特定産業技術研究支援センター 研究資金業務

異分野融合研究支援事業

2011年度 事後評価結果

異種染色体導入コムギが産生する新機能性物質の利用技術の開発

研究代表者氏名及び所属

荻原保成(公立大学法人横浜市立大学)

総合評価結果

当初目標を達成

評価結果概要

本研究は、オオムギ染色体を導入したコムギ系統を用いて、加工適性の優れたコムギにオオムギの高機能性物質産生能力を付与する利用技術の開発を目的として実施された。

オオムギ染色体導入コムギ系統の評価に関する先進的な課題であったが、メタボリックシンドロームに対する有効性の増強など、期待した成果のほとんどが得られず、中間評価で研究計画を新たな方向に修正した。最終的には課題担当者の努力により、オオムギ3番染色体(3H)導入でスティグマステロールが、7H導入でGABAが、5H導入でアピゲニンの配糖体など機能性物質がそれぞれ増加することを見いだした。物性面では5H導入で小麦粉のスーパーソフト化が、1H導入でも小麦粉の加工適性に顕著な効果を見いだし、生理機能面でも3H導入でふすまの酵素分解物に血流改善効果等を見いだした。一方、基盤研究面では、オオムギ染色体導入コムギ系統の機能ゲノム解析、機能性成分の網羅的プロファイルの取得など、今後適用範囲の広い方法論と技術を開発した。今後幅広く各種の植物研究で供されるポテンシャルを有しているので、蓄積した大量の遺伝子発現情報は詳細な解析とその成果の公表を期待したい。しかしながら、俯瞰的に観るとオオムギ染色体導入コムギ系統には画期的な特有の成分がほとんど無く、見いだした機能性物質についても科学的根拠となるメカニズム解析などに関する成果が乏しいため、新たな素材として評価され、早急な実用化への進展は難しい。また、オオムギ染色体の1本または2本をコムギに導入することで、農業上重要な形質の低下が観察された。導入染色体の安定性についても不明確である。一方、副次的な成果として、コムギの種子抽出物に神経突起伸展促進等の効果を、また、ふすま画分からも皮膚角化細胞の増殖促進効果を見いだし、機能性物質を工業的に安価に抽出する方法についても開発したことは評価できる。

研究実績では、研究期間5年、参画研究者数、研究費総額、学術成果を考慮すると、原著論文7報、特許出願(国内のみ)6件はやや少ない。特に、研究代表機関には研究費の約4割が投入されたが、原著論文1報は少なく、他の参画機関への指導性も発揮すべきであった。一方、近中四農研センターの実績と努力は高く評価できる。