生物系特定産業技術研究支援センター 研究資金業務

異分野融合研究支援事業

2011年度 事後評価結果

味覚修飾蛋白質ネオクリンとそのバリアントの機能解析・用途開発

研究代表者氏名及び所属

阿部啓子(国立大学法人東京大学)

総合評価結果

当初目標を達成

評価結果概要

本研究は、酸味を甘味に変換する活性を持つ味覚修飾蛋白質ネオクリンとそのバリアントを作出し、味覚受容における分子機構の解明と味覚計測技術の開発、さらにはバリアントの新規食品素材として利用性の評価を目的として実施された。

東京大学の強力なリーダーシップのもと、学術的な成果は、ネオクリンやバリアントの細胞応答評価によるpH依存的な甘味増強に関するモデルの提唱およびネオクリンと甘味受容体との結合領域の特定、分光学的手法によるpH依存的なネオクリンの構造変化の検出など、ネオクリンの作用メカニズムを中心に、世界の味覚受容研究の進展に資する重要な知見を得た。その成果は著名な欧文雑誌等の論文として、多くがすでに報告されており、高く評価できる。しかし、東京大学以外の参画機関からの新規な成果と論文は僅かである。

一方、技術的な成果では、甘味・苦味物質のハイスループット型評価法をほぼ確立し、味覚計測系の開発においても多くの成果が得られたが、生理的条件下の味覚の客観的な指標となりうるかは、今後の検討が必要である。ネオクリンやバリアントの麹菌発現系では収量の点で目標達成がなされなかったものの、大腸菌発現系で活性を有するヘテロダイマーの再構成に成功した。植物への発現では有用な結果を得るまでには至っていない。このように、植物や異種発現系での大量発現と生産は、産業化に向けた重要な検討課題として残されている。また、知的財産権の取得は産業化にとって極めて重要な要素であるが、特許出願はなく、利用面での役割が期待された食品企業2社の参画メリットが十分に発揮されず、異分野融合研究支援事業の趣旨に照らして残念である。

研究費の投入量では、東京大学に全体の約6割が配分された。研究業績の大部分が東京大学によるものであり、コンソーシアム全体の費用対効果はほぼ妥当な水準である。

以上のように、付加価値の高い新規食品素材開発には、再現性の高い基礎科学の成果に基づく技術の開発・改良が重要であり、本研究によって味覚修飾物質に関して食品業界にある程度のインパクトのある成果が得られた。今後は、成果を実際にどのように産業へ活かしていくかの具体的な取り組みに期待したい。