生物系特定産業技術研究支援センター 研究資金業務

異分野融合研究支援事業

2011年度 事後評価結果

エイコサノイド生産スーパーゼニゴケ植物工場システムの開発

研究代表者氏名及び所属

大山 莞爾(石川県公立大学法人石川県立大学)

総合評価結果

当初目標を達成

 評価結果概要

本研究では、生理活性を示すプロスタグランジン(PG)類の生合成経路であるアラキドン酸カスケードの律速酵素を他の生物種から遺伝子をクローニングしてゼニゴケで過剰発現させることにより、スーパーゼニゴケを作出して、栽培技術、植物工場、PG類の抽出、分析、製品化を目指して行われた。哺乳動物で良く研究されているアラキドン酸カスケード反応経路が、褐藻やゼニゴケで発現されるという点は、学術的に大変、興味深い。酵素の性質や利用に関して、今後の研究の発展が期待される。

また、ゼニゴケでの外来遺伝子の発現のため、高発現ベクターの開発に関する研究も発展が期待できる。生物系産業創出のため、園芸、植物工場、破砕や抽出、さらに製品化を目指した研究チームの連携も十分であった。費用対効果については、投入された費用に見合った妥当な成果が得られている。

最終的に、種々の困難な検討の元に、ある種の褐藻由来のシクロオキシゲナーゼをゼニゴケに発現させて、PGF2αの抽出、分離、製品化を試みた。このPGF2αの生成では、外因性のアラキドン酸にシクロオキシゲナーゼが作用して生成したPGH2が自然分解した産物によるものである。ゼニゴケ内での内因性PGF2αの大量生成のためには、細胞膜のアラキドン酸を遊離するホスホリパーゼ類やPGH2を基質とするPGF合成酵素の共発現が必要となる。製品化されたPGF2αのカプセル剤の応用性があれば、さらに良かった。PGF2αの水酸基の立体構造の確認も必要である。

研究期間の前半は目的の形質転換体が得られず、論文も1件のみと苦労したが後半では目的とする形質転換スーパーゼニゴケが得られ、最終的に5報の英語論文が掲載された。また、16件の学会発表等、その他の発表5件も行い、成果の発信もなされた。合計9件の特許出願がなされた点は、参画機関の相互連携の下に研究開発がなされたからと判断される。特に、動物以外の生物でPG合成に世界に先駆けて成功したことは評価できる。しかし、PGF2αにのみ重点が置かれているが、その実用的出口が不明確なので、他のPGや有用脂肪酸(EPAなど)の生産性の増加や利用も含めて実用化へ向けてのなお一層の努力が必要である。

本研究の更なる展開により、生物系産業の創出に重要な役割を果たすことが期待される。