生物系特定産業技術研究支援センター 研究資金業務

異分野融合研究支援事業

2006年度 中間評価結果

新しい遺伝子サイレンシング法を用いたスーパーグラスの開発

技術コーディネーター

高溝 正((独)農研機構 畜産草地研究所)

参画機関

(独)農研機構 畜産草地研究所、株式会社ジェイツー、独立行政法人産業技術総合研究所、株式会社グリーンソニア

【研究内容】

植物の転写因子に転写抑制活性を付与する遺伝子サイレンシング法(CRES-T法)を用い、トールフェスク及び日本シバにおいて、低リグニン含量またはストレス耐性の品種(スーパーグラス)を遺伝子組換え技術により開発する。また、組換え体の生物多様性影響を考慮し、不稔性の付与及びセルフクローニングの技術開発も行う。低リグニン化については、シロイヌナズナの二次細胞壁形成にかかわる転写因子のCRES-T法によるリグニン合成阻害がすでにわかっているので、この遺伝子のイネでの効果をまず調べ、さらにトールフェスク及び日本シバに対する効果を調べる。セルフクローニングの基礎技術として、植物由来選抜マーカーを開発するため、CRES-T法により各種ストレス耐性を示す転写因子をシロイヌナズナから選抜し、その結果をイネ、トールフェスク及び日本シバに応用する。これら転写因子のオーソログ、プロモーター等をトールフェスク及び日本シバの自己ゲノムからも単離する。

【中間評価結果概要】

当初計画に対して、概ね順調に進展している。シロイヌナズナの二次細胞壁形成にかかわる転写因子の機能がイネでは異なることや、新規にストレス耐性関連転写因子を見出す等、学術的に興味深い成果が得られている。牧草類のモデルとしては、水稲の他に、必要に応じてBrachypodium distachyon(ミナトカモジグサ)等の材料を、過大な負担にならない範囲内で活用してよい。グリーンソニアの耐塩性、耐浸透圧性キメラリプレッサーは、早期の論文発表と植物由来選抜マーカーとしての有用性の実証が期待される。
一方、CRES-Tによる実用的組換え体の作成は遅れている。多くの組換え体で表現型評価を的確に行い、終了時には、スーパーグラスのシーズが確実に取れていなければならない。研究前半では、組換え体作成の容易さ等の理由から、トールフェスクとともにイタリアンライグラスが、日本シバとともにベントグラスが、それぞれ代替材料として使われている。しかし、後半では、草種と目的とする形質について、当初目標及び代替材料自体の経済価値を考慮してターゲットを絞り込むべきである。また、トールフェスクと日本シバの有用組換え体作出を優先し、セルフクローニング用の自己遺伝子取得等はその後の課題とすることも考えてよい。
これまでに得た組換え体について、評価法、評価項目が必ずしも十分ではないので、リグニン含量やストレス耐性の実用的レベルを数値目標として設定し、その目標に対して種々の角度から十分に評価する必要がある。遺伝子の選抜、形質転換体作出、評価について、よりシステマティックな機関間の相互協力が望まれる。
論文発表、学会発表が極めて不十分なので、それぞれの担当課題で、新規知見については極力、論文として早期に公表することを心がけてほしい。成果の発表については、技術コーディネーターからの各研究機関への積極的な働きかけを特に望む。