生物系特定産業技術研究支援センター 研究資金業務

異分野融合研究支援事業

2006年度 中間評価結果

環境調和を考慮した細菌情報伝達阻害型薬剤の開発

技術コーディネーター

内海 龍太郎(学校法人近畿大学)

参画機関

学校法人近畿大学、キリンホールディングス株式会社、国立大学法人大阪大学、財団法人微生物化学研究会、大洋香料株式会社

【研究内容】

細菌の情報伝達機構を阻害することにより細菌を直接殺すことなく遺伝子発現を制御し細菌の病原性発現や薬剤耐性機構を抑制する、既知薬剤等とは異なる物質を探索し、生態系考慮のもとに環境汚染・薬剤耐性生物等の問題を起こさない、安全な細菌情報伝達阻害型薬剤を開発して農薬や食品産業分野、医薬等の幅広い用途に活用できる技術を開発する。

  • 選択的情報伝達阻害剤開発法による細菌情報伝達阻害型薬剤の開発
  • セルコンビケム技術による細菌情報伝達阻害型薬剤の開発
  • 情報伝達阻害剤の作用機構解析と細菌情報ネットワークの立体構造解析
  • 土壌微生物の生産する細菌情報伝達阻害剤の評価と開発
  • ショウガ由来細菌情報伝達阻害剤の生産と機能性材料への応用

【中間評価結果概要】

20000種のサンプルを対象に、選択的単離法(主にTs法)により細菌情報伝達阻害剤を選抜し、MRSA、虫歯菌、白菜軟腐病菌のヒスチジンキナーゼHKに対する阻害効果、タンパク質高次構造の決定、標的遺伝子の発現に対する影響の解析、高分子合成の取り込み実験、各種病原菌そのものに対する効果の解析等をin vivo、in vitroで評価・検証し、3種の新規化合物を含む10種の化合物を同定し、うち一つが既知の抗生物質とは異なる作用の阻害剤であることを明らかにし、シグナマイシンと命名して特許出願するなど、まずまずの成果を挙げており、ほぼ順調に研究が進捗している。技術コーディネータの指導についても相当の努力が見え適切であり、相互連携も十分であるためコンソーシアム全体としての進捗状況は良好であり、概ね研究目標を達している。
今後の留意点等として、環境調和型阻害剤開発がなぜ望まれるのか論理基盤を明確にし、開発虫歯予防薬の環境調和型薬剤としての優位性を具体的に示す必要があるとともに、S. mutansに対する抗菌剤としての視野、選択も考慮し、今後の展開でさらなるアピールが望まれる。また、イネ・白菜等の植物病に対する薬剤開発に十分集中するとともに、HD法による薬剤スクリーニングにも集中すべきである。
さらに、遅れが見られるシロイヌナズナHKEtr1の阻害剤スクリーニングについては、植物型HKがHKとRRのハイブリッド型であり逆に脱リン酸化されるなど、構造、機能、メカニズムともに他と異なるため、HK種に対して特異性が高いと思える現在のスクリーニング系を利用して阻害剤が取得できるかどうか疑問があるので、HD法の検討や新たな手法の考案も含め、早めに単離法を見極め対応する必要がある。
なお、成果の公表について、特許出願5件、原著論文4報(9月以降に受理が2報)があるが、原著論文がやや少ない印象であり、公表数の増加に努める必要がある。