生物系特定産業技術研究支援センター 研究資金業務

異分野融合研究支援事業

2007年度 中間評価結果

味覚修飾蛋白質ネオクリンとそのバリアントの機能解析・用途開発

技術コーディネーター

阿部 啓子(東京大学)

参画機関

東京大学、財団法人サントリー生物有機科学研究所、株式会社ミツカングループ本社中央研究所、日清食品ホールディングス株式会社、(独)農研機構果樹研究所

【研究内容】

酸味を甘味に変換する活性を持つ味覚修飾蛋白質ネオクリンを食品開発に応用する。培養細胞を用いた客観的味覚評価システムで、種々のネオクリンバリアントの味覚修飾活性及び各種味の相互作用を解析する。各種味覚物質と味覚受容体複合体の構造を解析する。これらの基礎的研究をもとに、ネオクリンの大量生産法及び新規調味食品、ネオクリン含有果樹等の食品素材を開発する。

【中間評価結果概要】

味覚受容機構に関する分子レベルの研究は、この数年目覚しい進展を遂げており、競争の激しい分野であるが、本研究グループは、「食品科学」という観点から、応用・実用を考慮した分子レベルでの基礎研究を行っている点では、世界でも有数の味覚研究グループである。
ネオクリン(バリアント)と味覚受容体との応答メカニズム研究とその応用という共通の目標にむかって、東京大学を機軸にしたコンソーシアム構成各機関の連携がよくコーディネートされている。ネオクリンおよびネオクリンバリアントの生産、ヒト受容体を導入したヒト胚腎細胞を用いた甘味、酸味、苦味評価系の確立など、味覚応答のメカニズムに迫った研究で大きな成果を得ており、一部機関に進捗の遅れはあるものの、全体としては当初計画より優れた進捗状況にあるものと評価できる。 一方、個々のグループについては、若干の軌道修正が必要となっている部分もある。構造学的解析が標的タンパク質の大量調整の進度に依存していること(サントリー)、ネオクリンの酸味抑制効果が受容体レベルでは明確にならないこと(ミツカン)、官能試験でみられるペプチドによる苦味の抑制がペプチドの構造活性相関によりもたらされるのではなく、pHによることが判明したこと(日清食品)、及び研究体制の変更や遺伝子導入に問題点等により当初計画から遅れぎみであること(果樹研)などである。ネオクリンを安定的にカンキツ体内で発現し、果実の品質を改良した形質転換カンキツの作出というかなり難度の高い目標をもつ果樹研については、チームメンバー強化を含む支援強化について、コンソーシアムとしても検討が必要である。
計画の基礎をなす機能解析研究については各グループとも一定の進展をみている。プロジェクト後半には、東京大学の強力な指導力とさらなる連携をもとに、当初計画が達成されることを期待する。さらに、本プロジェクトは新規事業創出を目指した研究であることを重視し、後半においては、麹菌を用いたネオクリンの大量生産系確立やネオクリン(バリアント)を応用した新規な食酢飲料の開発、受容体を導入した細胞を用いた新しい味覚評価系を利用した食品開発など、当初計画した応用をめざした研究を強化し、特許出願も積極的に行う必要がある。これらを通じ、味覚分野のサイエンス前進に大きく貢献する本研究成果を世界に先だって新事業創出に応用してほしい。