生物系特定産業技術研究支援センター 研究資金業務

イノベーション創出基礎的研究推進事業(終了)

2013年度 継続審査結果

ガスプラズマを用いた農作物の殺菌・消毒法の開発

研究代表者氏名及び所属

作道 章一(琉球大学医学部)

継続審査結果概要

本研究において、まず評価できるのは、必ずしも農業関係に属さないチームの各メンバーが、プラズマ技術の利用による農産物の保存、という目的をしっかり押さえ共有して現象の解析や技術の開発を行ってきたことである。

中課題Aでは、ガスプラズマ源の持続性、耐久性向上及び生成方法の最適化の点で十分に目標を達成しているとは言い難いが、主目的の大面積低温大気圧ガスプラズマの生成方法は確立されている。また、誘電体バリア放電を応用したローラーコンベア型殺菌装置を作成し、プラズマ生成と殺菌を同時に行う方式は優れたアイディアと認められ、実用化の可能性を検討している点も評価できる。電極を工夫することで、より有効で実用的となる可能性が期待される。中課題Bでは、ガスプラズマの殺菌・消毒効果に関し、ほぼ研究計画通りに実施され、有用な結果を得ている。しかし、測定条件等が限られており、測定結果は定性的な内容に留まっている。中課題Cでは、水-誘電体多層電極を開発することで3次元形状に適応した大気圧プラズマを創出している。これは、原理的にも可能性が大きく、今後多方面での利用が期待される。現状の成果は、立体的な領域のプラズマの生成が示されたところまでであり、生成された活性種の対象物までの効果的輸送方法の開発などが十分でない。中課題Dでは、中課題Aと中課題Cの成果をベースとして、農業への利用の立場から実際の果物や種子のプラズマによる殺菌効果を評価した。対象物の品質を維持しながら最良の殺菌効果を得る厳密な条件は求められていないが、それ以外ではほぼ計画通りに研究は進捗している。

このように、本研究は目標を達成していない項目も若干見られるが、目標以上、あるいは計画にないところまで開発されている技術もあり、新規性やオリジナリティのある研究結果がたくさん出ており、優れた成果が得られる見込みがあると判断した。しかし、得られた成果は極めて現象論的であり、今後は、プラズマ殺菌の基礎を固める研究を進めて頂きたい。

本研究の出口としての生物産業や社会・経済への貢献は、種子消毒、キュウリ、トマトを対象に殺菌装置の試作を計画している点が挙げられる。加えて、香辛料についてはその特性から化学薬品や熱による殺菌ができず、品質を損なわない新殺菌法が期待されていることから、これを実用化できれば社会への貢献度も高い。また、ローラーコンベア型装置は非常に実用に近い技術となっている。当面、種子の消毒と柑橘の表面殺菌を対象としているのは良いが、ほかの対象物にこの技術を拡大する際に何が問題になるかなど、手法を客観的に評価することも必要である。とくに、利用するプラズマの種類や不純物の添加などの違いにより、殺菌効果は大きく異なる可能性があるので、基礎的にいろいろな条件での定量的な評価を行うことで、さらに多くの農産物への適用が期待され、また、生成されるプラズマの電子密度や電子温度、分光特性(紫外?赤外)、各種ラジカルの密度、多様な菌に対する定量的な殺菌効果など、詳細な殺菌機序などをきちんと評価しておけば、対象が変わったとしても柔軟に対応できると考える。処理後の食品については、発がん性物質が生成されないかなどをぜひ詳細に調べて頂きたい。

本研究は、種子や果物の殺菌・消毒という目的から発した仕様に基づいて、プラズマの発生方法やその装置を考察すること自体に、新規性と科学的意義が認められる。今後も、一層、この手法の実用化のために必要な基礎を固めるという方針で進めて欲しい。