生物系特定産業技術研究支援センター 研究資金業務

イノベーション創出基礎的研究推進事業(終了)

2013年度 継続審査結果

分化全能性の分子機構の解明と実用作物への応用展開

研究代表者氏名及び所属

杉本 慶子((独)理化学研究所)

継続審査結果概要

本研究では、申請者らがシロイヌナズナから脱分化を促進する因子として発見したWIND因子を基盤としてその上流・下流因子を単離・解析し、そのような機構を活用して高等植物の脱分化・再分化を人為的に制御する技術を開発することを目標として掲げ、2つの小項目を設定して研究を進めてきた。

小項目1では、WIND因子の上流・下流因子の同定と機能解析を進めて脱分化・再分化過程を制御する分子基盤を解明することを目標とした。その結果、AP2/ERF転写因子等多くの因子を見いだし、傷処理によってカルス化が促進される過程など脱分化に関連するような新たな制御要因を見いだしており、研究は順調に進められ、当初予定の成果が得られたものと判断される。また、その過程で、従来カルス化を起こさないと考えられてきた根毛細胞においてエピジェネティックな制御によって細胞分裂が抑制される仕組みを明らかにした。これは、世界に先駆けた科学的にも価値の高い発見であると高く評価できる。

小項目2では、WIND因子とその上流・下流因子を活用することで、効率的な脱分化・再分化誘導技術を開発することを目標として、ナタネ、ダイズ、トマト、イネ等の実用植物への適用に取り組んできた。その結果、シロイヌナズナにおいては、WIND因子およびその上流・下流因子による制御と形態形成制御因子と組み合わせて用いることで、体細胞不定胚形成が著しく促進されることを見いだしており、一定の成果を上げたものと判断される。さらに、実用作物であるナタネとトマトにおいてAtWIND1による脱分化 (カルス形成) 促進が観察され、トマトでは不定芽分化も誘導されることが見いだされ、シロイヌナズナ由来のWIND因子がある程度広範囲の植物種に適用可能あることを示すものとしてインパクトは大きい。今後は、それぞれの植物種における増殖や形質転換の場面で、WIND因子がどれほどの効果を示すかを検証する必要がある。とくに、既存の組織培養技術では脱分化 (カルス形成) が困難な植物種におけるAtWIND1の効果を明らかにする必要がある。

このように、WIND因子の分子制御機構を明らかにして、実用作物での脱分化・再分化についての適用可能性に取り組みつつあり、ほぼ当初設定の目標を達成したと判断できる。

なお、本プロジェクトによる研究成果は、学会発表は多いが、論文発表は英文原著論文1編と英文総説1編のみであり、やや低調であり、一層の努力が望まれる。また、現段階では、特許は一つも出願されていないので、研究終了時までの出願を期待する。

継続計画では、これらの新規な発見をもとに、脱分化因子と再分化因子の時間的配置も含めた組み合わせによって、これまでにない効率的な個体再分化法を開発することに取り組む。さらに、組織培養による個体再分化系の開発が強く望まれ組織培養でカルス形成や個体再分化が困難である植物種を対象に、WIND因子と既に個体再分化に一定の効果が認められている形態形成制御因子等を組み合わせて用いる試みとなっている。これまでの3年間の研究成果を、分類学的にも用途的にも多岐にわたる園芸植物、蔬菜、薬用植物など、個体再分化が強く望まれている植物に適用するもので、成功したときには生物系特定産業に大きな貢献をするものと判断される。この新知見は、将来、有用植物の増殖・育種・遺伝資源保存等を行う際に、非常に有用なものとなるであろう。このように、最終目標は明確であり、研究計画も目標達成に向けた妥当な計画となっている。

なお、2年間の限られた期間中に一定の成果を上げるために、研究の進展に応じて、集中すべき課題を絞り込んでいく工夫は必要であろう。