研究代表者氏名及び所属
曾根 輝雄(北海道大学大学院農学研究院)
総合評価結果
やや不十分
評価結果概要
(1)全体評価
イネの最重要病害であるいもち病について、遺伝子対遺伝子説に基づくイネの抵抗性遺伝子(R遺伝子)といもち病菌の非病原性遺伝子(AVR遺伝子)との相互作用による抵抗性に着目し、AVR因子であるAVR-PiaとR因子であるPiaとを対象として、(1)AVR-Piaの発現時期、機構及び局在の特定、(2)イネPia遺伝子の特定、(3)AVR-PiaとPiaの相互作用に必要なアミノ酸残基の特定、及び(4)AVR-PiaとPiaタンパク質の相互作用の構造解析、を目指した。目標(1)と(2)では一定の成果を上げたが、当初予想に反し、AVR-PiaとPiaの相互作用が見られないことが判明し、目標(3)と(4)の研究自体や、代替の研究は実施できなかった。一方、AVR-Piaタンパク質間の相互作用がPiaによる抵抗性反応の活性化に必要であるとの新知見を得たので、今後の研究進展に期待したい。また、AVR遺伝子やR遺伝子の産物の可溶化発現についても一定の成果を上げた。結晶化はAVR-Piaについて成功したが、再現性の検証や構造解析は終了しておらず、目標達成には遠いと判断せざるを得ない。なお、成果について、多数の口頭発表があるものの、学術論文はPiaの実態解明に関する論文1編が著名学術誌に掲載可となっているのみであり、成果の公表は低調と言わざるを得ない。AVR-PiaとPiaタンパク質間相互作用を前提とした生物系特定産業への成果の活用は、現時点で可能性は見えない。
(2)中課題別評価
中課題A「AVR-Pia及びPiaの遺伝生化学的解析」
(北海道大学大学院農学研究院 曾根 輝雄)
上述の目標の内、(1)の成果は、現在、非病原性遺伝子に係る研究において、その産物のエフェクターとしての細胞内挙動に大きな関心が集まりつつあることから、この分野に重要な情報を提供することになろう。また、(2)については、AVR-Piaタンパク質間の相互作用がPiaによる抵抗性反応の活性化に必要であることが示された点は新たな知見として評価でき、今後の研究進展に期待したい。当初想定していたAVR-PiaとPiaの相互作用が見られないことから、(3)、(4)の目標の意義がなくなり、その代替的な研究の方向性も示されておらず、AVR-PiaとPiaの相互作用を前提とした生物系特定産業への寄与は現時点では困難であると言わざるを得ない。