生物系特定産業技術研究支援センター 研究資金業務

イノベーション創出基礎的研究推進事業(終了)

2010年度 終了時評価結果

高機能食品成分としてのスフィンゴ脂質に関する基盤構築

研究代表者氏名及び所属

菅原 達也(京都大学大学院農学研究科)

総合評価結果

当初計画どおり推進

評価結果概要

(1)全体評価

研究開始当初と比べると最終年度の追い込みはかなり評価できる。終了時までには学術的な新知見や今後の機能性食品素材の開発につながる成果が、おおむね計画どおり得られている。スフィンゴ脂質研究の学術的深化へ大きな貢献をすることが期待でき、また、将来の機能性食品関連産業の発展への寄与が期待できる意義ある研究である。

スフィンゴ脂質の同定に簡便かつ定量性のあるLC-MSを取り入れ、多くの食品素材のスフィンゴ脂質を探索し、新しい構造のスフィンゴ脂質を見出したことは、今後新しい機能性食品素材等の開発に繋がることが期待でき、大きな成果である。また、スフィンゴ脂質の抗炎症作用および紫外線による光老化抑制作用を見出したことは、食品や化粧品素材としてスフィンゴ脂質を利用する機運を加速することが期待される。また、経口摂取されたスフィンゴ脂質が腸管から実際に吸収されることを示し、MDR1とPDIA3などのタンパク質の関与を示唆する知見を得ている。今後、これまでにはないレベルにまで素材の機能性を高めることが重要であり、さらなる高機能化へのアプローチを提案することに期待する。

(2)中課題別評価

中課題A「スフィンゴ脂質素材の探索と食品機能性の評価」

(京都大学大学院農学研究科 菅原 達也)

食品スフィンゴ脂質分析の簡便な方法を確立し、新たにナマコ食材の可能性を示し、またトウモロコシにトリエン化合物を見いだす等、研究的にも実用的にも価値ある成果を得ることができた。スフィンゴ脂質を摂取すると、ヘアレスマウスの皮膚バリア機能が改善されること、スフィンゴ脂質の経口摂取による抗炎症作用および塗布による紫外線による光老化に対する抑制作用を見出したこと等、メカニズム解明に繋がるいくつかの知見が見出され、大きな成果が得られている。これらを切り口として表皮でのセラミド代謝関連遺伝子の変化を見出していることから、今後、代謝制御の全容を解明して、制御の鍵となる物質を見出し、高機能素材の発見に繋げて欲しい。1年くらい前倒しで研究が進んでいれば、期待以上の成果が得られていた可能性はあり、残念である。今後の研究の進展を期待する。

 

中課題B「スフィンゴ脂質の消化管吸収と体内動態の解明」

(東北大学大学院農学研究科 都築 毅)

小腸内で加水分解されたグルコシルセラミドが遊離スフィンゴイド塩基として吸収され、小腸細胞によってセラミドに再合成されるという吸収過程における物質変換を示すとともにリンパを介して吸収されることを明らかにしたが、結果的に経口摂取した素材由来の物質が作用点にまで到達していなかった。このようなスフィンゴ脂質の小腸からの吸収機構の一端を初めてデータとして示したことは、学術的な論争にも一つの回答を与える貴重な研究成果となっており、またエビデンスに基づく機能性素材の開発という機能性食品の発展にかかわる産業的課題へのインパクトという点でも大きいと言える。

作用メカニズム解明が中途となってしまったが、それが返って研究としての面白みを増すことになり、今後の展開が楽しみにもなった。今回研究対象に取り上げたスフィンゴ脂質以外にセラミド合成を促進する物質が存在する可能性があり、これまで以上に高い腸管吸収性を持ち、優れた皮膚機能改善作用を示す素材を見出すことに繋げて欲しい。