生物系特定産業技術研究支援センター 研究資金業務

イノベーション創出基礎的研究推進事業(終了)

2010年度 終了時評価結果

葉緑体工学を用いた自己糖化型エネルギー作物の開発

研究代表者氏名及び所属

中平 洋一(京都府立大学大学院生命環境科学研究科)

総合評価結果

やや不十分

評価結果概要

(1)全体評価

「自己糖化型エネルギー作物」創出の目的は21世紀のエネルギー問題、日本の農業問題を考えた意欲的な課題で、セルロース系バイオマスの糖化に必要な酵素セットを耐熱性酵素の中から決定し、それらの酵素遺伝子をタバコの葉緑体に導入、タバコの形質転換体でそれらを活性のある形で細胞内可溶性タンパク質10-50%に発現させたことは一定の評価ができる。ただ、耐熱性の酵素を用いる優位性として、安定性に優れることが期待されるが、その点の比較評価がされておらず、十分な結果とはいえない。また、低リグニン含量タバコの作出は途中であきらめ、形質転換体タバコ葉より抽出した耐熱性酵素を用いてアルカリ処理したタバコ葉での糖化試験を検討しており、前処理なしの自己糖化植物の作成の目標を達成できなかった。植物体の細胞壁自体の構造の改変を組み合わせることにより、さらなる自己糖化の向上が望めるので是非チャレンジしてほしい。
また、本研究で1件の特許出願したものの、原著論文発表はなく使命を果たしているとは言えない。今後、研究を発展させ成果の論文化を期待したい。

(2)中課題別評価

中課題A「耐熱性糖化酵素群を用いたバイオマス糖化法の検討」

(株式会社耐熱性酵素研究所 鹿島 康浩)

本課題では、前処理や酵素生産のコストにおけるブレークスルーを図るのが目的であり、その意義は大きいものと考えられる。今回、前処理を行わないと糖化率の向上ができなかった点や、タバコの葉のみの分解にとどまっており、ブレークスルーをもたらすまでには至っていない。あくまで、自己糖化植物にこだわり、酵素の組み合わせで問題解決を行ってほしかった。ただ、植物体で生産させるターゲットとなる酵素を特定し、それを用いた分解系の構築を行ったことは、一定の評価はできる。これらをさらに突き詰めて、タバコのみならず、他の植物にも応用可能な酵素生産を追及してほしい。また、これらの知見を活かすため、積極的に外部への情報発信が必要と考えられる。

 

中課題B「耐熱性糖化酵素群を大量発現する葉緑体形質転換タバコの作出」

(京都府立大学大学院生命環境科学研究科 中平 洋一)

自己糖化植物長の作出という目標に対して、葉緑体の発現系を利用した酵素生産システムを構築し、活性のある形で細胞内可溶性タンパク質量の10-50%にあたる酵素生産に成功したことは評価できる。形質転換体での個々の酵素発現にとどまらずに、必要な酵素群を同時に発現する系が構築されるとさらに良いと考えられる。ただし、これらの高発現系を構築した植物体の生育への影響などについては、まだ解析が不十分であり、今後の開発を期待したい。さらに、今回の課題ではあきらめた植物体の細胞壁自体の構造の改変を組み合わせることにより、さらなる自己糖化の向上が望めるので、是非挑戦してほしい。そして、これらのブレークとなる基礎技術については、積極的な外部への発信が望まれ、まだ行っていない原著論文化を期待したい。