生物系特定産業技術研究支援センター 研究資金業務

イノベーション創出基礎的研究推進事業(終了)

2010年度 終了時評価結果

絹の高機能化による再生医療材料創製システムの構築

研究代表者(所属機関)

朝倉 哲郎(東京農工大学大学院工学研究院)

研究参画機関

東京農工大学大学院工学研究院
徳島大学大学院ヘルスバイオサイエンス研究部

総合評価

優れている

講評

本研究は、絹の一次構造改変技術、最適化のためのプロセッシング技術、構造・物性評価のための高度解析技術、再生医療材料評価技術を基盤とした再生医療材料創製システムを構築し、小口径絹人工血管の試作と動物への移植による評価を行い、ヒトへの移植可能な小口径絹人工血管の実用化とともに、人工皮膚用絹フィルムと絹不織布の開発を目的として実施された。

これまで長期開存が難しいとされてきた3mm以下の直径の人工血管にチャレンジし、作製法の試行錯誤のもと、ラット、ブタ、イヌという異なった動物実験モデルでその有効性を学術的なサポートデータのもと検証し、最終的にダブルラッセル網シルク繊維へのウレタンコート材料を開発して、3-4mm程度の系でブタ、イヌともに開存する系を見出した。また、1.5mmの系では、中大動物での実績は得られていないが、ラットの系で、組/巻き/コーティング、エレクトロスピニング、ダブルラッセル編+PEGDEコーティングの系で開存例が得られており、材料の適合性の高さを示した。人工血管作製と動物実験が連携よくなされた。このようなデバイス開発研究にも関わらず、学術原著論文を31報報告するなどサイエンスとしても優れた成果を創出した。ブタを用いた実験系で3mm以下の開存は認められず、イヌの系で1年間の開存が認められた例が得られてはいるが、全体として開存率が低いので、更なる改良が必要である。また、創傷被覆材についても、素材のフィルムの新規性は認められるが、具体的に創傷治癒促進が可能である旨のデータが示されていない。

以上のように、医療デバイスとしての完成度にはもう一工夫が必要であるが、生物資源である絹の持つ生体適合性、物理強度などを活かしつつ、小口径人工血管の開発という大変チャレンジングな研究開発を学術的な知見を基盤として開発にあたり、短期間に将来に向けた成果が多く得られたという点は高く評価できる。臨床、産業化に向けた更なる研究の進展を望む。作出したトランスジェニックカイコを系統保存することができた点も評価する。費用対効果もかなり高いと判断できる。