研究代表者(所属機関)
山口 高弘(東北大学大学院農学研究科)
研究参画機関
東北大学大学院農学研究科
全国農業協同組合連合会飼料畜産中央研究所
総合評価
当初目標を達成
講評
本研究は、草原短角牛の造成と産肉機構の解明及びその赤肉質の特徴と健康性の解明を目標とし、日本短角種DM形質牛を草原短角牛として復活させ、その産肉性について分子生物学的な解析技術等を活用した産肉生理的な基礎研究並びにマクロな飼養システム及び関連した肉質解析等を連携させて実施された。
草原短角牛の造成については、ET技術と通常交配により当初目標の規模を超えた産子が得られ、そのインパクトは大きいと考えられる。
また、産肉機構については、ミオスタチンの細胞内シグナル伝達調節機序を初めて明らかにするとともに、草原短角牛由来筋芽細胞におけるエネルギー代謝特性を解明し、粗飼料多給型短期肥育の有用性を明らかにした。
さらに、赤肉質の特徴と健康性については、対照の日本短角種牛肉の肉質特性を明らかにし、草原短角牛の肉質が日本短角種牛肉とほぼ同等の含有成分であり、不飽和脂肪酸含有率が低く、脂肪融点が高いなどの特徴を明らかにした。
学術的には、外国誌2報、国内誌2報の合計4報が、原著論文として発表され、草原短角牛の免疫という観点から健康性指標とエネルギー高変換効率に関して明らかにしている。
草原短角牛群の造成で当初の目標を超える規模の産子を得ており、かつ、粗飼料多給型短期飼育法の有用性や肉質の特性も明らかにしているので、費用対効果は妥当と判断する。
今後、生物系産業分野において、草原短角牛の国内粗飼料短期肥育により、飼料費の削減と肥育期間の短縮が図られ、低コスト赤肉生産技術の確立へと繋がり、低脂肪で柔らかい牛肉生産を基盤とした新産業創出に一定の役割を果たすことが期待される。
特に、東北地域の生物系産業の創出には、草原短角牛はかなり貢献するのではないかと期待される。なお、最終的な肉質評価までは研究期間中に終了していないが、草原短角牛肉の肉質特性と呈味特性は、今後実施される19ヶ月齢での枝肉調査と官能試験で判断されるとのことである。
現在、我が国の牛肉生産は輸入飼料に過度に依存しており、植物資源を活用した新しい牛肉生産の仕組みが必要とされていることから、本研究課題はイノベーション創出基礎的研究推進事業として相応しい事業であったと評価する。