生物系特定産業技術研究支援センター 研究資金業務

イノベーション創出基礎的研究推進事業(終了)

2011年度 終了時評価結果

植物ミトコンドリア遺伝子発現の分子基盤解明と育種への応用

研究代表者氏名及び所属

中村 崇裕(九州大学高等研究院)

総合評価結果

当初計画通り推進

評価結果概要

 (1)全体評価 

本研究課題は、ミトコンドリア遺伝子発現の既知制御因子であるPPRタンパク質に着目し、植物ミトコンドリア遺伝子発現を人為的に制御する技術を創出することを目的とした。研究の現状から考えて意欲的な目標設定であった。成果として、PPRタンパク質が標的RNA配列を認識する機構を明らかにし、さらに、PPRモチーフと標的RNA塩基の対応を解明した。これらの知見は、任意のRNAを標的にした人工PPR作出の道を開くもので高く評価でき、今後の研究の進展が期待される。ミトコンドリアのin vitro翻訳系の開発に関してはミトコンドリアRNAの形状と翻訳効率の違いについての知見を得ることができた。今後、人工PPRタンパク質の機能確認では、より迅速な評価系の構築も必要である。情報発信については現時点では十分とは言えず、成果の公表を急ぐ必要がある。

 

 (2)中課題別評価

中課題A「PPR蛋白質を用いたミトコンドリア遺伝子発現改変技術の開発」

(九州大学高等研究院 中村 崇裕)

計算科学的にPPRタンパク質のRNA認識コードを初めて明らかにした点は学術的に高く評価でき、今後の研究の進展が期待される。今後、個体での機能評価については、シロイヌナズナや酵母などのモデル生物系を用いて、人工PPRが設計通りに生体内で機能することを効率的に実証する必要がある。目的に合わせた人工PPRタンパク質を構築するためには、より詳細に試験管内の実験による知見を積み重ねて確認する必要があるが、目的の達成のためにはより戦略的、かつ長期的な研究が必要である。目標とした雄性不稔を利用したハイブリッド育種などへの応用はこれからの課題であるが、見出された知見がさまざまな生物産業に応用されることを期待する。

 

中課題B「植物ミトコンドリア翻訳システムの解明」

(東北大学大学院農学研究科 風間 智彦)

本中課題は、ミトコンドリアの翻訳制御研究の現状を考えると、難易度の高い目標設定であった。葉緑体の無細胞翻訳系の知見をもとに、イネ培養細胞から単離したミトコンドリアを用いて、無細胞翻訳系を構築することを試みたが、鋳型依存的な翻訳活性の確認には至っていない。目標設定が高かったため、残念ながら研究期間内に翻訳系の構築に至らず、達成度が低くなった。一方で、ミトコンドリアRNAの解析から、ミトコンドリアRNAの形状と翻訳効率の違い、という新しい知見を得ることが出来た。