研究代表者氏名及び所属
井上 啓(金沢大学フロンティアサイエンス機構)
総合評価結果
優れている
評価結果概要
本課題は、中枢神経性肝糖代謝制御機構を利用して食品中成分のスクリーニング法を開発し、その有効性を実証することを目的とした極めてユニークな研究である。はじめに、 アミノ酸・タンパク質素材である鶏肉抽出物がマウス個体の肝糖産生を抑制し、肝臓のシグナル伝達兼転写活性化因子(signal transducer and activator of transcription 3、以下STAT3)を活性化することを示した。有効成分のスクリーニングを行い、ヒスチジンとヒスチジン含有ペプチドを見出した。このヒスチジンをマウスへ投与すると肝糖産生を抑制し肝臓STAT3の活性が増加することを示した。さらに、この肝臓STAT3の活性化が迷走神経遮断または肝臓クッパー細胞除去により消失し、ヒスチジンの脳内投与が肝臓STAT3を活性化し肝糖産生を抑制したことから、“ヒスチジンとヒスチジン含有ペプチドが中枢神経性に肝臓STAT3を活性化すること”を見出した。また、肝臓STAT3依存的に抑制されるG6PC(glucose-6-phosphatase, catalytic subunit)プロモーター下にレポーターを発現するマウスを作製しており、肝臓STAT3活性モニターマウスの作出が順調に進行し、間もなくヒスチジンの効果を検討する段階になっている。これら研究成果は、「中枢を介した肝臓STAT3活性化により糖代謝を改善する」新しい作用モードで糖尿病を予防・改善する食品成分のスクリーニングに有用な手段を与えるもので、研究および産業への貢献が期待され、その意義は大きい。以上のように、独創性と特色ある研究成果が得られ、優れた研究と評価できる。