生物系特定産業技術研究支援センター 研究資金業務

イノベーション創出基礎的研究推進事業(終了)

2011年度 終了時評価結果

腸感染症管理用素材としてのチーズホエイの有効活用

研究代表者氏名及び所属機関)】

金丸 義敬(国立大学法人岐阜大学)

総合評価結果

当初目標を達成

評価結果概要

本研究では、近年国内のナチュラルチーズの消費拡大に伴い増加しているチーズホエイ副産物の利用方途に焦点を当て、チーズホエイの新規機能性、特に抗ウイルス性乳タンパク質による腸感染症並びに下痢症の予防効果及び軽減化に着目し、その機能を活用した製品を開発することである。産業創出に当たっては、実験室レベルでの成果を工業的なレベルまで昇華する必要があり、その点で本研究プロジェクトは製品の工業レベルでの開発に成功している。

チーズホエイに含まれる抗ウイルス性乳タンパク質を濃縮し、腸感染症管理用素材として工業スケールで実用化するための基本条件(濃縮、殺菌、噴霧条件)を大型膜処理試験装置により確立した。最適化ホエイ濃縮物の大規模フィールド仔ウシ投与試験ではロタウイルスの自然感染が生じておらず、濃縮ホエイの効果を示せなかったが、ホエイ濃縮物の仔ウシへの投与による増体及び腸内菌叢改善効果が示唆され、仔ウシ用人工初乳や代用乳への添加利用を提案するに至っており、感染症予防という観点から、ホエイ濃縮物の有効性が示唆されたことは評価し得る。また、仔マウスを用いた試験においてホエイ濃縮物のヒトロタウイルス株に対する抗ウイルス効果が確認された。マウスin vivo試験により、濃縮ホエイの実用化を図る上で重要なウイルス感染予防及び症状軽減化のメカニズムを解明しており、ウシやヒトへの応用の可能性があると考えられる。前ヒト臨床試験(仔ザル試験)では、ロタウイルスの自然感染が生じておらず、濃縮ホエイの効果を示せず、研究の中止をせざるを得なかったことが残念ではあるが、今後違った形でのヒトへの応用・実用試験が図られることが期待される。得られた成果は、チーズホエイに含まれる抗ウイルス性乳タンパク質を濃縮したホエイ濃縮物が、今後畜産業における仔畜の腸内菌叢改善効果による感染症予防、増体などに有効なことを示唆しており、腸感染症管理用素材として工業スケールで実用化の方法も確立されたことから、産業創出の可能性があると評価される。

神経質なまでに食の安全性を求められる近年の食品業界では、食肉生産動物への飼料添加物に対する消費者の関心も高まっている。本課題において提案されている素材は、原料、製造法、使用法など、すべてにおいて循環再利用の概念を基に構築されており、生産者にインパクトを与える科学的根拠がやや乏しいが、学術的検討は十分になされており、今後の発展性は期待できる。

以上のことから、腸感染症に対して予防と症状軽減化という2つの機能を併せ持つ最適化ホエイ調製物は実用化段階まで達しており、生物系産業創出への寄与は大きい。