生物系特定産業技術研究支援センター 研究資金業務

イノベーション創出基礎的研究推進事業(終了)

2012年度 終了時評価結果

SNP分析を利用した日本独自作物ダイコンの低コストゲノム研究

研究代表者氏名及び所属

西尾 剛(東北大学大学院 農学研究科)

総合評価結果

優れている

評価結果概要

 (1)全体評価 

本研究は、独自に開発した簡易一塩基多型(SNP)分析法を利用した遺伝子型分析による低コストゲノム研究の実例を、日本独自の作物として重要なダイコンを材料として示すことを目的として実施された。ダイコンのような他殖性作物のゲノム研究はイネ等主要作物やトマト等自殖性野菜に関する研究に比べ遅れていたが、本課題研究はその遅れを一気に取り戻し、野菜研究におけるゲノム研究の在り方を示す好例となったと思われる。

育種に用いるのに十分な数のDNAマーカーをダイコンの完全な染色体地図上に座乗させた本研究の意義は大きい。また抽苔性や辛味成分など、産業利用に直結しそうな遺伝子あるいはその連鎖マーカーが得られたことも評価される。さらに、困難とされていたダイコンの形質転換体の確立は、近い将来、学術上、実用上大いに評価される研究となろう。

本研究では、研究手法の開発とその応用を同時に進めるところに難しさがあり、手法開発と個別研究の速度差がみられる部分もあるが、大枠の研究目標は達成されたと言えよう。

 

 (2)中課題別評価

中課題A「遺伝子のSNP解析とゲノム研究基盤の構築

(東北大学大学院 農学研究科  西尾 剛)

ドットブロットSNP手法の改良からより簡便な磁気ビーズ法の開発等低コストゲノム研究に必要な研究手法の開発を多数行い、3,000マーカーが載った高密度連鎖地図の構築とBACクローンの整列の目標をほぼ達成するとともに、ゲノムの部分塩基配列情報を蓄積し、多数のSNPを明らかにした。さらにハクサイゲノムとの同祖染色体領域の推定、物理地図作成の推進等一連の研究成果の学術的水準は高く、ダイコンのゲノム研究を大きく進展せしめた。同時に、作物育種を含め農林水産業に広く貢献するものと思われる。また、これらのゲノム情報を他の連携する中課題の研究に融合させた点も高く評価される。

 

中課題B「ダイコンの形態特性遺伝子の解析

(京都府立大学 生命環境科学研究科 平井 正志)

AFLPマーカーを用いてダイコンの連鎖地図を構築し、根の肥大性、抽苔性、葉毛などの形態特性の遺伝分析を行い、それぞれのQTLを検出し、SSRマーカーを作成し、連鎖地図に位置づけた成果は評価でき、他の中課題の遺伝子解明に応分に貢献した。 

 

中課題C「ダイコンの生理的形質遺伝子の解析

(岩手大学 農学部 高畑 義人)

抽苔性に関する遺伝子候補の同定、根の肥大に特異的な因子の単離、増殖効率の良い品種の検索と品種間差異の有無の確認、早晩性に関与する遺伝子の予測、形質転換系の確立等一連の研究成果の水準は高く、生物系特定産業の発展に貢献しうる成果と思われる。また、ダイコンの小胞子培養を効率よく行うための多検体法・超多検体法の確立は、他の作物にも応用可能であり、種苗産業への貢献が期待される。さらに、困難とされていたダイコンの形質転換系の確立は、有用遺伝子の機能解析に直結する技術であり、科学的意義が高く、独創性やインパクトにも富み、今後の発展が大いに期待される。AFLPマーカーを用いてダイコンの連鎖地図を構築し、根の肥大性、抽苔性、葉毛などの形態特性の遺伝分析を行い、それぞれのQTLを検出し、SSRマーカーを作成し、連鎖地図に位置づけた成果は評価でき、他の中課題の遺伝子解明に応分に貢献した。 

 

中課題D「ダイコンの成分特性遺伝子の解析

((独)農研機構 野菜茶業研究所 石田 正彦)

ダイコンの辛味成分グリコシノレートの前駆物質4MTB-GSLの簡易測定法の開発、多数検体の定量により、4MTB-GSL含量のQTL解析の精度が高まり、関連遺伝子を推定した成果の科学的価値は高い。また、4MTB-GSLの欠失と連鎖したSSRマーカーが開発できたことは評価に値し、これにより交配組み合わせに依存しない4MTB-GSL欠失育種が可能となった。4MTB-GSLを欠失したダイコンの加工品では、加工後の黄変やたくあん臭の発生が見られず、新たなダイコン加工製品創出に繋がる可能性を秘め、実用上も有意義な成果である。 

 

中課題E「種・系統間SNPの解析とゲノム情報利用技術の開発

(タキイ種苗株式会社 研究農場 坂本 浩司)

13個のマーカーの組み合わせを用いて国内外の94種のダイコン品種(系統)を識別し、国内で流通しているダイコン品種・系統の識別手法を確立し、特許出願に漕ぎ着けた。さらに、識別法を普及させるため、簡便な低コストでの品種判別法のキット化の目処を付けた。これらの一連の成果は、生物系特定産業に対する貢献の観点から高く評価される。また、DNA選抜育種について、早晩性に関する開花関連遺伝子FLCを同定し、それらのDNAマーカーを開発した点も評価される。