生物系特定産業技術研究支援センター 研究資金業務

イノベーション創出基礎的研究推進事業(終了)

2012年度 終了時評価結果

イネ科作物の耐湿性に関わる通気組織形成能の機構解明

研究代表者氏名及び所属

小柳 敦史(農研機構 作物研究所)

総合評価結果

優れている

評価結果概要

 (1)全体評価 

本研究は、コムギの栽培において湿害が減収の大きな原因の一つであることに着目し、コムギに耐湿性を付与する育種の基盤を構築することを目的として実施された。

通気組織形成に関わる遺伝子としてテオシント(トウモロコシの近縁野生種)の通気組織形成能QTL領域に座乗する4遺伝子とイネの2遺伝子を特定してコムギに導入して多数の形質転換コムギの作出に成功した。通気組織形成が向上したコムギは見られなかったが、この研究を展開する過程で、通気組織形成能の評価システムの構築、難しいとされていたコムギの形質転換効率の向上をはじめとした様々な技術上の開発も進められた。また、イネでは、Candidate1が恒常的通気組織形成の鍵遺伝子であることを示した。本研究で得られた知見が、今後のイネ科植物の通気組織形成機構の全容解明に大きく貢献すると期待され、高く評価できる。

 

 (2)中課題別評価

中課題A「コムギの通気組織形成能の改良

((独)農研機構 作物研究所 小柳 敦史)

コムギの耐湿性育種に応用可能な通気組織形成能および耐湿性の評価法、アグロバクテリウムを用いる分子遺伝学的研究に不可欠な形質転換技術を開発し、これらの技術を用いテオシントとイネの通気組織形成に関わる遺伝子をコムギに導入した。通気組織形成が向上するコムギは得られなかったが、イネのEREBP3遺伝子導入変異体において深播きで第1節間の伸長が促進された。これは、耐湿性の改良に役立つ現象であり、注目に値する。また、コムギの遺伝子発現解析を精力的に進め、イネ科植物の通気組織形成に共通した制御が機能している可能性を示す等、コムギに耐湿性を付与する分子育種の基盤構築の目的を達成し、今後の発展につながる知見が得られたと評価される。

 

中課題B「テオシントの通気組織形成遺伝子の解析

((独)農研機構 畜産草地研究所 間野 吉郎)

テオシントの恒常的な通気組織形成に強く関与することが知られている第1染色体上のQTL領域を含む純度の高い準同質遺伝子系統の作出、QTLの詳細マッピングを行い、中課題AやC1の研究材料を提供した。また、トウモロコシMi29にテオシントの遺伝子断片を導入してほぼ全ゲノムをカバーする染色体部分置換系統を作成し、第1染色体上のQTLが最も強い効果を持つことを確認するとともに、新たなQTLが第2染色体に存在することを示した。さらに、通気組織形成と耐湿性の関係を解析して両者に正の相関があることを示すなど、交配育種による本研究に必須の材料調製や生理的解析を担い、本研究の展開に貢献した。本中課題で得られた育種資源は今後の研究においても活用されるものと期待される。 

 

中課題C1「通気組織形成遺伝子の単離と機能評価-通気組織形成遺伝子の同定・機能解析

(名古屋大学大学院生命農学研究科 中園 幹生)

中課題Bより提供されたテオシントのQTL領域をトウモロコシに導入した準同質遺伝子系統と原系統のテオシント、トウモロコシを用いレーザーマイクロダイセクション、次世代型高速DNAシークエンサーを用いた網羅的遺伝子発現解析、ならびにマイクロアレイ解析などの先端的解析手法を駆使することによって、テオシントの通気組織形成能に関わると考えられる4つの候補遺伝子、ならびにイネのEREBP3という候補遺伝子を特定するという重要な役割を果たした。また、トウモロコシとイネを用い、誘導的通気組織形成においては、エチレンの下流で活性酸素種がシグナルとして機能するプログラム細胞死が関わっていることを明らかにしたのをはじめ、テオシントにおける耐湿性には通気組織形成に加え、スベリンやリグニンの蓄積を伴う酸素漏出バリアが形成されることを明らかにするなど、学術的に高く評価される優れた成果をあげた。 

 

中課題C2「通気組織形成遺伝子の単離と機能評価-イネの根の変異体集団を利用した新たな通気組織形成遺伝子の単離と機能解析」

(国際農林水産業研究センター 小原 実広)

イネの通気組織形成に異常のある突然変異体の解析により、恒常的な通気組織形成関与遺伝子Candidate 1を単離した。世界初の快挙であり、高く評価できる研究成果である。また、イネには少なくとも恒常的通気組織形成、誘導的通気組織形成、窒素飢餓による誘導的通気組織形成の3種類の通気組織形成機構が存在すること示した。さらに、恒常的通気組織形成に関わると考えられる遺伝子を明らかにした等、中間評価後本研究に参画した課題で研究期間が短かったが相応に優れた成果をあげた。