研究代表者氏名及び所属
神成 淳司(慶應義塾大学環境情報学部)
総合評価結果
やや不十分
評価結果概要
(1)全体評価
本研究では、24時間連続計測可能な圃場設置型糖度計の開発を目的とする。着果から収穫までの糖度変化の見える化を実現し、収穫後の農産物の選別だけではなく、より品質の高い農産物を生産するための営農活動に役立てられるものを目指す。本目的を達成するために、対象果実の糖度を圃場にて24時間連続計測するLEDレーザーの開発を目指す。本研究は、センサ、および測定方法を開発する研究の成果としてはデータが不足しており、それに基づく客観性ある検討が不十分と言わざるを得ない。果実の糖度計測に適した波長の選定や計測精度の検証、温度や外乱光による影響など、屋外での使用法の検討が行われ、その結果を基に、二つの受光ファイバーを採用したり、複数の波長を用いて糖度の計測精度を向上させる手法がセンサに取り入れられている。しかし、トマトを対象に実際に糖度を計測できるセンサは開発できたものの、「着果から収穫までの長期におよぶ24時間連続測定をするための装置の開発」という当初の目標が完全に達成されているとは言い難い。示されている糖度の計測データは、実験室でのデータであり、実際の現場で温度や外光の影響をすべて補正し、実用に足る精度で糖度が測れるレベルには達していないように思われる。また当初の目標であった測定部位自動制御装置の開発は断念され、簡単な治具による保持となっており、計測のたびに人手によりセンサを適切に修正保持する必要があると思われる。また外光の影響があることは実験によって明らかにされているものの、その補正方法についての検討は不十分である。これらのことから、計測についての専門知識を持たない生産者が、着果から収穫までの長期にわたって24時間連続測定できるようなシステムには至っておらず、生物系特定産業への寄与はまだ期待できるレベルには達していないと言わざるを得ない。また成果の公表は論文1件、学会発表5件、シンポジウム発表1件であり、情報発信はあまり行われていない。
(2)中課題別評価
中課題A「糖度データ分析技術の開発」
(慶應義塾大学 神成 淳司)
本中課題では、果実の糖度計測に適した波長の選定や計測精度の検証、温度や外乱光による影響など、屋外で使用した場合に想定される状況の検討は行われている。しかし、果実の部位や深さ方向における糖度のばらつきに関する具体的対応策は述べられていない。また、同一の果房内における各果実の糖度のばらつきと生育環境との情報のリンクに関しても具体的記述がない。実際に圃場において計測する場合には、様々な作業によって株が移動し揺れが生じ、計測対象の果実の位置も変化し、センサによる測定部位のずれや、果実とセンサの衝突も十分考えられる。これらに対する対策も十分ではなく、実用化レベルには遠いという印象を受ける。現状の治具で可能となっているのかは判断できないが、恐らく測定の都度の位置合わせが必要ではないかと思われる。開発した治具による保持方法が、実際の24時間連続測定に際して最も適切な方法なのか再考を要する。また温度補正や外光補正についてもさらなる検討が必要である。
中課題B「糖度測定センサーの開発」
((独)理化学研究所 小川 貴代)
本中課題では、トマトからの反射光の測定には成功して、特定波長の光の反射により糖度を計測する可能性を示すことができた。また、果実の単一波長光に対する反射強度を測定する測定系のハードウェアが構築された。実験室レベルでの整った環境であれば、精度よく糖度を計測できるセンサとなっているようであるが、現場圃場で外光や温度の変化がある中でどの程度の精度で糖度が計測できたかについて検証結果が示されていない。また、開発した実用機は、どの程度の小型化が更に必要なのかの目標設定が必要ではないかと思われる。その為には、据え置くのか、携帯型として使うのかといったセンサの運用方法についても最初の段階で明確化しておくべきであろう。今後の実用化に向けての改良点や解決すべき課題は決して少なくはない、という印象を受ける。ただし、今回開発した赤外レーザ光を用いた糖度測定の原理は、トマトのような表皮の薄い果実には有用な方法のようであり、トマト以外にも有用な果実があるのであれば、今後発展性の見込める方式であると言える。