研究代表者氏名及び所属
大島 敏久(九州大学大学院農学研究院)
総合評価結果
やや不十分
評価結果概要
(1)全体評価
本研究の目的はD−アミノ酸が食品の二次機能、三次機能を向上させるメカニズムを解明し、新規の機能性食品の開発を展開することである。
D-アミノ酸の分析法の開発と、それを用いた発酵食品とその原料の網羅的D-アミノ酸分析、そしてD-アミノ酸生産に寄与している微生物の同定と、そのラセマーゼ遺伝子の酵素学的性質の解明は、非常に手厚く実施された。しかし、中間評価以降に実施予定のD−アミノ酸の二次機能、三次機能の解明や、新規の機能性食品の開発を目指した取組みは、中課題Bを除いて、ほとんど成果を挙げなかった。専門別の縦割りの研究体制や、研究計画にあいまいな部分があったためと考えられた。
以上、総合的に研究の意義は認められるが、計画通りの成果が得られたとは言えないと評価した。
(2)中課題別評価
中課題A「発酵食品とその素材のD-アミノ酸に関する基礎研究」
(九州大学大学院農学研究院 大島 敏久)
食品(食酢、魚醤、茶等)に含まれるD−アミノ酸含量を網羅的に解析し、D−アミノ酸の生成に乳酸菌の発酵過程が関与することを示した点、また酵素反応を用いた遊離型D−アミノ酸分析法の開発は目標を達成した。しかし、D-アラニンの呈味性、嗜好性に関する結果は、ややプレリミナリーである。D-アミノ酸の食品保存機能に関する実験結果も、2次機能として応用へつながる解析結果とは言えない。当初目標に掲げた、どのD-アミノ酸がどの機能向上に関与するのかが、不鮮明である。D-アミノ酸の代謝制御メカニズムや機能性の解明については、達成目標であるにもかかわらず、ほとんど未着手の項目があった。
研究の進捗状況が余り芳しくない事を重く受け止めて、本中課題は計画通りの成果は得られていないと評価した。
中課題B「米などの穀類とその発酵産物のD-アミノ酸の機能に関する基礎研究」
(関西大学化学生命工学部 老川 典夫)
日本酒を中心に据え、全般的に計画に従ってやるべきこと、やれることにしっかり取組み、着実に成果を挙げた。また中間評価での指摘により、黒酢にも取り組んだ。日本酒と黒酢中のD−アミノ酸の定量解析データは膨大であり、存在するD-アミノ酸の種類や量を明らかにし、これらのアミノ酸は発酵菌によって生産されることを明らかにした。日本酒における2次機能(呈味性)についても系統的な解析が行われ、D-アスパラギン酸、D-アラニン濃度の高い日本酒が旨味を呈すること等が明らかにされた。3次機能として、免疫賦活作用、抗炎症作用についての解析も行われた。さらにはD—アミノ酸を強化した日本酒および黒酢の試験醸造を行い、旨味を増強した日本酒および黒酢の製造方法の基盤を確立し、D−アミノ酸を添加した日本酒ベースのリキュール製品の販売を実現させた。
以上の様に、本中課題は、目標を上回って達成したことから、高く評価した。
中課題C「D-アミノ酸の定量、生成機構と制御に関する基礎研究」
(名古屋大学大学院生命農学研究科 吉村 徹)
ヨーグルト等のD−セリン、D−アスパラギン酸の酵素定量法については、研究分担者らが発見した酵素を用いる方法を開発し、市販キット化に成功した。また、ワインとヨーグルトの発酵過程での菌叢とD−アミノ酸含量の関係から、2種類の乳酸菌を同定し、乳酸菌がD−アミノ酸の起源であることを明確にした。しかし、D−アミノ酸の二次機能、三次機能が明らかにされておらず、三次機能に関しては遊離D−アミノ酸の生理的意義に関する既知の事実が記述されているにとどまっており、食品の三次機能との関連が不明瞭のままに終了を迎えた。
以上の通り、本中課題は計画通りの成果は得られていないと評価した。