生物系特定産業技術研究支援センター 研究資金業務

イノベーション創出基礎的研究推進事業(終了)

2013年度 終了時評価結果

インシリコ分子設計とナノ技術を駆使した牛白血病ワクチンの開発

研究代表者氏名及び所属

間 陽子(独立行政法人理化学研究所)

総合評価結果

  当初計画どおり推進

評価結果概要

(1) 全体評価

 牛白血病は発症すると必ず死の転帰をとるため、畜産業界に与える打撃は深刻である。この疾病の防除にはワクチンによる予防が最も有効な解決法といわているが、いまだ有効なワクチン開発はなされていない。本研究は、細胞性免疫の拠点である主要組織適合抗原クラスII分子(MHC分子)が多型性であることに着目し、それに最も良く適合する牛白血病ウイルス(BLV)のペプチド断片をコンピュータ利用シミュレーションによって選出(インシリコスクリーニング)し、MHC分子に効率良く結合させることにより、細胞性免疫を誘導させた牛白血病のワクチン開発を目指すものである。
 抗原ペプチドと結合した牛MHC分子の構造を明らかにした点および細胞性免疫誘導が可能な生分解性ナノ粒子固定化ペプチド(候補ワクチン)を作製する方法論を確立した点は評価できる。また、作製したGag蛋白P12由来ペプチドとEnv蛋白gp51由来ペプチド2種をナノ粒子に固定化して牛に投与し、BLV感染および候補ワクチン免疫に対してMHC分子の免疫応答が異なることを調べた点および牛白血病ワクチンとしての安全性、有効性を免疫学的に詳細に解析した点も評価できる。この種の研究は、牛白血病はもとより他の感染症においても世界的に稀で、その方法論を示すことができた点で大きな成果であり、今後の病原体研究に極めて有用であると判断できる。しかし、候補ワクチンの安全性は確認できたものの、免疫原性についてはBLV感染防御が確認できず、また牛白血病ワクチンとしての細胞性免疫誘導能の有効性についても満足できる成果を示すことはできなかった。さらに、候補ペプチドの接種によってウイルスロード(ウイルス感染細胞数)の増加が抑制された点から、病態進行抑制効果があったことを強調しているが、ウイルス量の抑制が直接的に病態進行抑制と繋がる理由について明瞭な説明がされていないのは残念である。

(2) 中課題別評価

中課題A:「インシリコスクリーニングを用いた生分解性ナノ粒子固定化ペプチドの創出」
(独立行政法人理化学研究所 間 陽子)

 基礎研究として、牛MHC分子の構造解明や生分解性ナノ粒子の作製方法の確立および免疫用担体としての安全性を示したことは大きな成果である。しかし、中間評価以降さらなる進展があれば、汎用性が高まり、他の病原体制御に応用できるより大きな成果となりえたと考えられる点が惜しまれる。また、候補ワクチンの安全性については一定の成績が得られ、今後ナノ粒子を担体とする不活化ワクチン開発に道を開いた点は高く評価できる。しかし、牛白血病ワクチンとしての評価としては疾病防御効果判定に用いられた動物数が限定されたため、個体差の問題が成績の解析を難しくしている点は残念である。すなわち、ワクチンとしての有効性について見た場合、ウイルス感染前および後における候補ワクチン免疫によりウイルス産生の抑制が見られた点はワクチンへの可能性を示したものとして評価できるものの、感染防御効果が確認できなかった点、細胞性免疫の誘導を直接的に証明できなかった点については有効性評価として不十分と思われる。今後、ペプチドの改変等による担体への結合能や細胞性免疫誘導能を上げるためのさらなる研究が必要と思われる。情報発信については、基礎研究において3件の特許を出願すると共に、原著論文28編をインパクトファクター2以上の国際誌に公表したことは大いに評価したい。

中課題B:「生分解性ナノ粒子固定化ペプチドのウシ個体への投与試験」
(一般財団法人日本生物科学研究所 布谷 鉄夫)

 当課題は中課題Aの研究実施の基盤形成を担う黒子的役割を担う課題ではあるが、中課題として単独に評価せざるを得ない。BLV感染実験系のための施設整備を行って病態牛群の飼育を可能にし、その施設を用いて中課題Aで作製した候補ワクチンの効果を検証した。中間評価時点では進行が遅れ気味であったが、試験の一部を理化学研究所が行うことによって当初予定した牛への投与試験を終了することができた点は評価できる。一方、当課題の一部を中課題A(理化学研究所)で実施することに変更したため、当初計画の立て方に疑義が生じた点は否めない。すなわち候補ワクチンの効果検証において、当課題が当初予定していた日本生物科学研究所の研究施設の他に外部施設を使用せざるをえなかったことは、当課題の担当グループの努力がやや不足していたと判断される。また、原著論文などの成果発表数が少ない。以上の点から、当初の目標には至っていないと判断せざるをえない。