生物系特定産業技術研究支援センター 研究資金業務

イノベーション創出基礎的研究推進事業(終了)

2013年度 終了時評価結果

魚類天然資源から効率的に優良経済形質を選抜育種する技術の開発

研究代表者氏名及び所属

荒木 和男(独立行政法人水産総合研究センター増養殖研究所)

総合評価結果

  優れている

評価結果概要

(1) 全体評価

 本課題は、安定的な水産養殖生産のために、天然魚から優良経済形質を保持した種苗個体を効率的に選抜できる革新的選抜育種技術の開発を目指した。
 ブリは我が国の魚類養殖産業の中で生産量、生産額ともに第1位の、最も重要な魚種であり、本研究により、ブリのゲノムを解析し、詳細な物理地図と連鎖地図を作成し、デジタル(Digital) PCRによる1塩基多型解析技術を導入して、天然魚から有用な形質を持つ個体を効率的に選抜する革新的選抜育種技術を開発した。また作成したゲノム地図を利用して、性決定に連鎖する遺伝子座を同定すると共に、ブリの性決定様式がZW型であることを解明した。また魚類において世界で初めて、ハダムシ抵抗性遺伝子座の存在を明らかにし、ハダムシ抵抗性ハプロタイプブロック(ハプロタイプブロック:親から子へ組換えが起こらずに伝わる一定のDNA連鎖)を持つ個体がハダムシ抵抗性を有することを証明した。性決定に連鎖する遺伝子座とハダムシ抵抗性ハプロタイプブロックに関してインパクトファクター2以上の論文を2報発表しており、現在も更に物理地図と連鎖地図に関して2報投稿中である。特許も性判別に関連して出願1件および登録特許1件となっており、評価される。以上により本研究は優れた成果を挙げたものと評価した。

(2) 中課題別評価

中課題A:「Digital PCRを用いた1塩基多型解析系の開発に関する基礎研究」
(独立行政法人 水産総合研究センター増養殖研究所 荒木和男)

 中課題Aでは、SNP(1塩基多型)マーカーによる高密度連鎖地図とEST(発現遺伝子タグ)情報を載せた物理地図を統合し、充実したブリ遺伝子地図を完成させた。それを用いてハダムシ抵抗性および性決定を制御するハプロタイプブロックを同定した。また、ブリの性決定領域の詳細解析と遺伝様式よりブリの性はZZ-ZW型であることを明らかにし、性決定遺伝子座を特定した。さらにハダムシ抵抗性のブリ家系が作出された。また、得られた遺伝子地図を用いたデジタル PCRによる様々な表現型に対する高速連鎖解析を可能にした。
 最終的にブリ遺伝子の物理地図を作成した中課題Aの成果は、育種の基礎をなすものであり、実際にハダムシ抵抗性品種作出や、性判別法の確立といった実践に結びついており、高く評価される。成果が高く評価される一方で、原著論文がAquaculture誌とPLoS One誌の2報だけというのは決して十分ではないと判断される。投稿中の論文を早急に完成させ成果の公表に努めてほしい。以上の通り、本研究は総合的には優れた研究であると評価した。

中課題B:「Digital PCRを用いたブリのSNP情報を利用した表現型の解析に関する研究」
(東京海洋大学海洋科学部 坂本崇)

 中課題Bでは、ブリゲノムを16倍カバーするBACライブラリーを作成し、BAC末端配列より単離したマイクロサテライトマーカーを配置した高密度連鎖地図を作成した。また性決定およびハダムシ抵抗性を解析するためのブリ家系を作出して表現型を解析した。SNPを用いて性決定を制御するハプロタイプブロックを解析した。物理地図とゲノム解析が終わっている魚種3種とのシンテニー(シンテニー:遺伝子の保存されている並び順)による性決定遺伝子の候補選択を行った。QTL解析によりハダムシ抵抗性遺伝子座を明らかにし、最終的にハダムシ抵抗性品種の作出にまで結びつけたのは大きな成果であり、水産業への貢献は大きい。
 しかしながら、寄生数が30%低い程度では、この抵抗性家系が即座にブリ養殖業界に受け入れられるとは言い切れない。今後は、ブリの抵抗性を一層高める研究を続けてほしい。また、性決定遺伝子座の特定も、ハダムシ抵抗性に関わる遺伝子座も、いずれも責任遺伝子の特定にまでは至らなかったのは残念である。
 本中課題の成果により、特許出願1件及び特許出願し登録に至ったものが1件、原著論文が2報(投稿中2報)であったが、原著論文数は決して十分ではないと判断される。投稿中の論文を早急に完成させ成果の公表に努めてほしい。以上を総合的にみて、本研究は優れた成果を挙げたものと評価した。