生物系特定産業技術研究支援センター 研究資金業務

イノベーション創出基礎的研究推進事業(終了)

2013年度 終了時評価結果

スギ優良個体の選抜のためのゲノムワイドアソシエーション研究

研究代表者氏名及び所属

津村 義彦 ((独)森林総合研究所・森林遺伝研究領域)

総合評価結果

  優れている

評価結果概要

(1) 全体評価

 本課題は、我が国林業における主要樹木であるスギの育種を効率的に進めるための新しいアプローチとしてのゲノム育種の基盤整備を目的として展開された。当初および中間評価後の修正計画に従って、3つの中課題の緊密な連携のもと、スギのゲノムリソースの整備、有用形質と遺伝子型との関連解析、精英樹のジェノタイピングデータベースおよび形質データの取得、ジェノミックセレクション実施に向けたマーカー数の推定およびモデルの構築が実施され、目標とした多くの成果が得られている。
 本研究の成果を発展させ、スギのゲノム育種を進めることにより、優良形質を持つスギの育種期間の大幅な短縮や、マーカー利用による効率的な雄性不稔スギの育種、選抜が可能となることが期待されることなど、林業における生産性の向上ばかりでなく、スギ花粉アレルギー軽減という環境面においても貢献が期待できる。さらに、本研究で得られた情報や成果は、他の針葉樹のゲノム育種にも寄与することが期待されることから、目標以上の成果が得られたと高く評価できる。
 また、成果の公表も国際誌を主とした水準の高い学術雑誌に積極的になされている。

(2) 中課題別評価

中課題A:「ゲノムワイドなアソシエーション研究と分子育種基盤の整備」
((独)森林総合研究所・森林遺伝研究領域 津村 義彦)

 本中課題は、研究全体の基盤形成の一角と成果の中核を形成する重要な課題として取り組まれた。当初計画を上回る規模のスギのほぼ全ゲノム領域をカバーすると考えられるBACライブラリーと効率的な遺伝子スクリーニングが可能なスーパープールを構築するとともに、他の針葉樹の連鎖地図を凌ぐ3,570座が座乗する高密度で情報量の多い基盤連鎖地図を構築した。また、幅広くSNPs(一塩基多型)探索を行い、当初計画を上回る規模の9,216 SNPsについてSNPタイピング用のオリゴアレイを作成した。さらに、雄性不稔スギの選抜マーカーの開発を進め、高い精度で雄性不稔スギを選抜できることを示した。これらの成果は、ゲノムサイズの大きいスギにおいても、ゲノムワイドアソシエーション解析の有効性を示した優れた成果であり、他の針葉樹の育種にも大きな影響を与えるものとして高く評価できる。
 成果の公開については、評価の高い国際誌にIF2以上11報を含む計14報を発表しており、積極的に行われたと評価できる。

中課題B:「スギ精英樹の形質データの再測定及び次代検定林データの収集とりまとめ」
((独)森林総合研究所林木育種センター 高橋 誠)

 本中課題は、スギ遺伝資源の遺伝的評価、形質の評価に関わるもので、ジェノミックセレクションの基礎、本課題のアウトプットの良否に関わる重要な役割を担っている。精英樹について、SSR(単純反復配列)マーカーを用いたジェノタイピングを行い、樹高や雄花着花量など多項目に渡る形質の再調査により再現性のあるデータを取得し、ほぼすべてのスギ品種または精英樹のデータを網羅するデータベース化を行った。また、GIS(地理的観点、環境的要因)、スギ遺伝資源の多様性評価、遺伝的観点の3軸を基に、スギ遺伝資源の基本骨格となるスギコアコレクションを構築した。これらの成果は、今後のマーカー利用育種を進める上で必要なデータの精度向上や評価方法について基礎的な部分を確立したものであり、今後の林業育種に貢献するものとして評価できる。
 情報発信は、2報の論文発表に留まっているが、スギの形質データの測定を中心とする研究の性格から判断して、適切に行われたと判断できる。

中課題C:「スギの連鎖不平衡データを用いたジェノミックセレクション解析法のモデルの作成」
(九州大学大学院理学研究院 舘田 英典)

 本中課題は、樹木における分子育種に理論的基盤を与えるという重要な課題に取り組んだものである。ほぼ計画とおり実施され、ゲノムサイズの大きなスギについて、繰り返し配列領域が大きいこと、遺伝子をコードしていない領域では連鎖不平衡領域が大きいことなどを明らかとした。繰り返し配列を指標として連鎖不平衡領域を明確にし、これを外した領域について、マーカーを設定するなどの提案がなされたことは評価できる。また、これらに基づいて、スギのような地史的分布変遷を繰り返す樹木集団の遺伝的特徴を理論的に明らかにした。さらに、開発したシミュレーションプログラムによるモデル解析の結果、初期集団やアップデート時の連鎖不平衡量と選抜集団が持つ遺伝的獲得量によってジェノミックセレクションの効率が影響されることなどを明らかにし、シミュレーションによる効率的な選抜方式を提案したことは、今後のスギをはじめとする針葉樹のゲノム育種の場面で貢献するところが大きいと高く評価される。
 これらの成果は、評価の高い国際誌にIF2以上4報を含む合計5報の論文発表を行っており、情報発信も十分に行われている。