生物系特定産業技術研究支援センター 研究資金業務

イノベーション創出基礎的研究推進事業(終了)

2013年度 終了時評価結果

フロリゲンの直接導入による開花・生長調節技術の創出

研究代表者氏名及び所属

辻 寛之 (奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科)

総合評価結果

  やや不十分

評価結果概要

(1) 全体評価

 フロリゲンは植物に普遍的な開花決定分子であることが明らかにされているが、本課題では、植物にフロリゲンを直接導入することによって開花を引き起こすことを目的とした。
 シロイヌナズナ、イネ及びタバコを用いた研究で植物用の高性能ペプチドベクターを特定し、植物で高効率タンパク質を直接導入する方法を開発した。また、イネでフロリゲン受容体を発見し、フロリゲンの活性本体となるタンパク質複合体を同定して、フロリゲン活性化複合体の作用モデルを提唱した。フロリゲンの直接導入による開花促進はシロイヌナズナで確認したが、現時点では分子的証拠が不十分であり、開花個体の出現頻度から見て確実に開花を引き起こすことには至らなかった。短日植物であるキクでは、フロリゲンによる花成開始を示すマーカー遺伝子の人為的活性化や接ぎ木による開花促進を確認した。また、レタス(キク科の長日植物)も研究対象にされたが、開花促進を確認できなかった。
 このような、タンパク質の直接導入法の開発、活性化複合体のモデル提唱は評価できるものの、最終目標であるフロリゲンの直接導入による開花促進の研究が確実なものとならなかったことは残念であった。また、キクでは研究が十分進展したとは言えない状況にあり、レタスでは目標を達成できなかった。情報発信については、原著論文が2報であり十分とは言えない結果であった。特に中課題Bでは、未だ基礎的なデータを蓄積している段階で達成度が低く、論文刊行が無かったのは大きな問題である。この点については、中課題間の連携およびサポート体制が機能しておらず、代表者の指導性が十分に発揮されなかったことが要因と思われる。

(2) 中課題別評価

中課題A:「フロリゲンの高機能化と直接導入技術の確立」
(奈良先端科学技術大学院大学バイオサイエンス研究科 辻寛之)

 独自のタンパク質混合法の開発によって、従来条件の250倍以上の効率を示す植物用高性能膜透過ペプチドベクターを特定して、超高効率タンパク質直接導入法を開発した。また、この方法によってイネ、シロイヌナズナ、トマトにフロリゲンを直接導入し、開花関連遺伝子の活性化を確認した。フロリゲンの分子機能の解析では、フロリゲンの細胞内受容体と活性本体となる複合体を発見し、フロリゲン活性化複合体の機能制御機構解明についても転写因子交換モデルを提唱した論文を公表したことについて評価できる。また、フロリゲン複合体の機能変換過程も解明し、フロリゲンがイネの分枝にも関係することも示した。最終達成目標でもあるフロリゲンの直接導入による花成促進はシロイヌナズナで成功したが、ペプチドによる誘導を受ける個体が処理個体の一部しか存在しないため、その科学的評価は難しいのに加えて、現時点ではまだ分子的証拠も不十分であり、開花頻度から見て確実に開花を引き起こすと断定するには至らなかった。中間評価後、RNA-Seq解析やDNAメチレーション解析が進められたが、研究期間内には残念ながら開花調節との関連を明示することができず、中途半端な結果となった。この結果を見ると、直接導入による開花促進に集中することも有効だった可能性もあると思われる。論文は2報であり、特許出願は2件であった。論文数は、5年間の成果としては不十分であり、蓄積した成果の今後の公表が強く求められる。

中課題B:「花卉類等へのフロリゲン直接導入技術の構築・評価」
(奈良県農業総合センター 浅尾浩史)

 幼若相は花芽分化できない生長相と定義されるが、フロリゲンがこれを強制打破可能であることを示し、キクの幼若相はフロリゲンの輸送と応答は可能であるが、合成ができない生長相であることを示した。さらに感光相のキクにおいて、フロリゲンの合成だけでなく機能も光周性制御を受けることを示し、日長依存的なフロリゲン機能制御の可能性を見いだした。フロリゲンの直接導入を試みた結果、商用キク(園芸品種)においてHd3aタンパク質がキク茎頂内部に取り込まれ、花芽分化の開始を示すマーカーを人為的に発現誘導させることを確認した。中間評価後に材料として加え、期待されたレタスでは直接導入はうまくいかなかった。以上の成果は得ているものの、全体的に研究の達成度が低く未だ基礎的なデータを蓄積している段階と言える。また、中間評価時にも論文が無いことを指摘され、最大限の努力を求められたにもかかわらず論文は1報もなく、特許取得もない不十分な結果に終わり、今後はその説明責任を果たす必要がある。