生物系特定産業技術研究支援センター 研究資金業務

イノベーション創出基礎的研究推進事業(終了)

2013年度 終了時評価結果

インシリコ予測に基づいた植物の新規機能性低分子ペプチドの探索

研究代表者氏名及び所属

花田 耕介 ((独)理化学研究所環境資源科学研究センター)

総合評価結果

  優れている

評価結果概要

 本研究課題は、植物体内でホルモン様の生理活性を有する低分子ペプチドをコードする短い遺伝子を情報解析によって推定し、過剰発現体の表現型解析を通じて、成長制御およびストレス耐性の機能を示すペプチドをコードする遺伝子を同定し、遺伝子がコードするペプチドの示す生理活性を明らかにすることを目的とした。
 解析により、シロイヌナズナおよびイネにおいて遺伝子がないと考えられていたゲノム領域で、新規の短い遺伝子を多数推定した。次に遺伝子の発現を確認できるマイクロアレイを構築し、様々な組織、発生段階および環境ストレス条件で遺伝子発現プロファイルを構築し、視覚的にわかりやすいデータベースを構築した。その後、ホルモン様の機能を示すと考えられる短い遺伝子の候補をシロイヌナズナとイネで選定し、過剰発現体の表現型解析によって、シロイヌナズナで83個(形態形成に関与69個、ストレス耐性14個)、イネでは1個(形態形成に関与)の過剰発現による表現型が現れる遺伝子を同定した。また、翻訳産物であるペプチドを人工的に合成して植物体に投与し、シロイヌナズナで形態形成に関与する5個以上のペプチド、イネで形態形成に関与する1個のペプチド、およびシロイヌナズナで塩耐性を示す1つのペプチドを同定した。1つのペプチドに関しては、イネおよびトマト等の作物種でシロイヌナズナと同様な生理活性を確認した。
 以上のように本課題は計画を達成し、情報解析と実験を組み合わせて新たな生理活性物質を発見する一つのモデルを確立して提示した、優れた研究である。また、これらの研究結果の公表により植物において低分子ペプチドが色々な場面で機能している可能性を発信した。WEB上でこれらの遺伝子に関するデータベースが公開されて多くの研究者がその成果を利用できる体制も整い、低分子ペプチドに関する研究のきっかけと、基盤を提供した意義は大きい。本研究は、シロイヌナズナではっきりとした成果を得たが、作物への展開、応用面での発展はこれからである。しかし、外部から加えた合成ペプチドが特定の生理作用を示す事例が得られたことは、作物栽培の新しい技術開発に発展する可能性を示しており、今後の展開が期待される。