研究代表者氏名及び所属
鈴木 啓一 (国立大学法人東北大学大学院農学研究科)
研究参画機関
国立大学法人東北大学大学院農学研究科
宮城県畜産試験場
公立大学法人宮城大学食産業学部
総合評価結果
当初目標を達成
評価結果概要
本事業では、東北大学始め三機関が共同で豚マイコプラズマ性肺炎(MPS)病変を少なくするための改良を試み、世界で初めて遺伝的に病変の少ないランドレース(L)種集団が作られた。MPS病変を指標に選抜したL種の抹消血を使って免疫特性を調査することにより、病変と関連する免疫マーカーの特定を進め、簡易に育種改良が判定できるシステム作りを積極的に行い、計画した項目全体を通じて、抗病性育種が適切な形質の選定により進めることができることを明らかにした。また、供試豚数は200頭以上、免疫形質100以上の項目を調査し、採材したサンプルは1,000を超えた。これほど多数の豚を使い、多くの免疫学的測定を短期間で実施した研究は、国内はもとより海外にも見られないものであり評価に値する。
学術的な成果として、MPS抗病性L種が自然免疫能と細胞性免疫能にシフトした免疫特性を持つことを明らかにすることが出来た点は重要な研究成果である。また、血中のサイトカインなど各種免疫応答成分や、炎症関連成分のC反応性タンパク質濃度などが育種段階でマーカーとして重要な指標になり得ることと、育種で得られた抗病性形質が遺伝的に程度差はあるものの継承されることが確認された。さらに、末梢血免疫能選抜豚とMPS抗病性豚との抗病性に違いがあることと、その差異の要因は強化される免疫能に違いであることの示唆を与えた点も評価される。
生物系特定産業創出への寄与については、前述のMPS抗病性L種の免疫特性に関して特定の細胞集団とサイトインの関与を明らかにした点は、養豚産業の現場にも貢献する内容である。この成果は、今後の育種改良に関して、慢性疾病対策の一つとして、抗病性育種を進める際に、新たな免疫指標として提供できる内容であり、その指標としての有用性を更に裏付けて、今後の育種改良に応用していただきたい。これにより抗病性に優れた種豚が造成可能となり、効率的な豚肉生産の面から、農林水産業への寄与は大きなものとなる。さらに、抗菌性添加物に依存しない養豚生産の可能性を強く方向付けており、国民から期待される食肉の安全性への貢献も大きいと考えられる。
今後、疾病の状況がある程度明確になっている一般農場に試験豚を搬入し、その環境下における抗病性効果の検証が望まれる。
近い将来、本事業の成果であるMPS抗病性育種のためのサイトカイン、細胞及び組織レベルでの免疫指標を、各県が取り組む系統造成や民間の種豚会社へ提供して、我が国の畜産業界に貢献することを期待する。