生物系特定産業技術研究支援センター 研究資金業務

イノベーション創出基礎的研究推進事業(終了)

2010年度 中間評価結果

共生細菌により昆虫が獲得する新規生物機能の解明と制御への基盤研究

研究代表者氏名及び所属

深津 武馬(独立行政法人産業技術総合研究所)

評価結果概要

昆虫が恒常的に微生物を体内に共生させることにより、あたかも1つの生物のような複合システムを構築し、害虫化、寄主植物特異性、新規植物資源の利用など、新たな生物機能の獲得に重要な役割を果たしている。

本研究では、昆虫類共生細菌のゲノム解析、昆虫共生器官において発現する遺伝子群のEST解析、共生細菌の機能解明及び害虫制御への展開等を進め、農業・衛生害虫防除、新たな昆虫制御標的の開発などに資する基盤技術への展開を目指す。

中間時の目標としては、農業害虫や衛生害虫の体内に存在し、非常に興味深い性質や機能を有する共生細菌10種のゲノム解析を推進し、完全もしくは概要ゲノム配列を決定するとともに、うち2種以上について論文発表のフェーズに到達する。また、実験室飼育及び詳細な解析が可能な農業・衛生害虫5種の共生器官で発現する遺伝子群について、各5,000以上のESTを取得する。さらに、これらの研究と併行して、昆虫と細菌の機能面での共生関係を具体的に明らかにする。

研究の評価においては、各中課題とも多くの成果を得ており、いくつかの予測していなかった新規性の高い成果も得られ、特にカメムシ共生細菌農薬耐性の獲得の発見等は生物系特定産業への貢献につながる大きな成果と思われ、達成度は高いとされた。一方で、全体として大きな可能性を秘めた研究であると評価もできるが、また同時に実用化との距離が大きいということも指摘された。情報発信については、かなり頑張っているともいえるが、論文作成をもう少しスピードアップするとともに、データベースの公開や一般向けの一層の発信について期待感が示された。

中課題別評価

中課題A「共生細菌のゲノム解析」

(放送大学教養学部 二河 成男)

共生細菌10種の全ゲノム配列決定という目標がほぼ達成された。これは膨大な仕事であったと想像され、その努力に敬意を表したい。 更にそれらの比較研究から、昆虫や共生細菌の進化の問題に切り込んでおり、得られた情報の活用が具体的に表れている。また個々の遺伝子の機能に関しても解析が進められ、たとえばカメムシの害虫化と共生細菌の関係や共生細菌のビタミンやアミノ酸の合成と宿主への供給などが論じられている。
しかし、やや現象論レベルにとどまっており、もう少し掘り下げた機能解析、昆虫生理との関連にまで深められるとなおインパクトのあるものになるであろう。

 

中課題B「昆虫共生器官のEST解析」

(独立行政法人農業生物資源研究所 野田 博明)

5種の農業・衛生害虫の共生器官について、それぞれ5,000以上のESTを取得するという目標はほぼ達成できており、学術的価値は高く、ESTデータベースが利用しやすい形で公開されることが期待できる。特に、昆虫細胞系を利用した共生細菌による宿主の免疫系の誘導に関する研究は、他の研究グループにはないユニークなアプローチであり、高く評価できる成果である。さらに、リケッチアが精子核に感染し、精子を通して垂直伝播されることを初めて明らかにしたことは高く評価できる。共生細菌の共生機構という意味で大変興味ある分野であり、あまり手を広げることなくじっくりと掘り下げてほしい。

 

中課題C「昆虫―微生物共生系の機能解析」

(独立行政法人産業技術総合研究所 深津 武馬)

昆虫と細菌の共生系で共生細菌が行っているいくつかの機能について解析が進められてきた。カメムシの共生細菌による殺虫剤抵抗性の獲得という現象は、これまで誰も指摘したことのない新規なそしてインパクトある発見であろう。 その他トコジラミ共生細菌のビタミンB供給機能、アブラムシ共生細菌のアミノ酸代謝への関与、ゾウムシ共生細菌のチロシン合成への関与等もレベルの高い成果として評価できる。

なお、今後はいくつかのテーマに絞って集中的に研究を進めることを期待する。どれに絞るか、またどこまでやるのかについては研究者の主体性を尊重したい。しかしこのプロジェクトのミッションからすれば「害虫化」と「殺虫剤抵抗性」は主要課題として入れるのが望ましい。「ゲノム解析」と「RNAi」も今後の手段基盤形成という意味でも完成させられることを期待したい。

また、この中課題は、今後は中課題Aと合体させて実施することが望ましい。