生物系特定産業技術研究支援センター 研究資金業務

イノベーション創出基礎的研究推進事業(終了)

2010年度 中間評価結果

作物の抵抗性誘導経路の強化による新規病虫害複合防除手法の開発

研究代表者氏名及び所属

光原 一朗(独立行政法人農業生物資源研究所)

評価結果概要

本研究は、JA/ET系の抵抗性誘導経路を強化することで、病虫害複合防除法の開発を目指している。 総体的にはこれまで計画通り順調に研究が推進されており、研究計画を微調整し、中課題間の協力体制をより一層強化することで、最終的な研究計画の達成も充分可能である。特にMAPキナーゼカスケード遺伝子を導入した組換え植物の作製と耐病・耐虫性の評価、内在性シグナル物質WAF-1およびその類縁体スクラレオールの病虫害抵抗性誘導能の評価は、順調に進展している。WIPKやSIPKK遺伝子過剰発現体が病虫害抵抗性を示したことや、WAF-1およびその類縁体スクラレオールを処理した植物が病害抵抗性を示したことは今後の応用を期待させる。

一方、トマトはナス科モデル植物として国際的に認知され、ゲノム配列解析も近々完結することから、種々の遺伝学的・分子生物学的研究にトマトを積極的に利用すべきである。また、特定のシグナル伝達系の限られた遺伝子に特化した発現解析ではなく、非特定多数の植物遺伝子の発現変動を網羅的に解析する手法も一部の有望植物系統については取り入れることが望ましい。研究実施計画では、ジャスモン酸とエチレンの両シグナル系を解析することになっているが、実際はジャスモン酸シグナル系の実験がほとんどである。今後は実施計画と実施内容の整合性に配慮し、エチレンシグナル系についても検討する必要がある。

なお、中課題B、Cについては成果が出にくい課題であることを理解出来るが、現時点では公表された研究成果が少ないことを指摘しておきたい。

中課題別評価

中課題A「植物の病虫害ストレス応答機構の解析」

(独立行政法人農業生物資源研究所 光原 一朗)

タバコのMAPキナーゼ経路の研究は順調に研究成果が得られており、トマトにおける同経路の解析も、徐々にではあるが進み始めている。WIPK遺伝子過剰発現タバコ植物やSIPKK遺伝子過剰発現タバコ・トマト植物が病虫害抵抗性を示したことは、抵抗性強化の実用的展開への期待を抱かせる。

また、JA/ET系シグナル伝達を調節する新規遺伝子の探索については、MPK4に類似したトマトMPKの解析によりその活性化機構と標的候補を明らかにした点で進捗が認められる。今後、これらのMAPキナーゼの上流の解析を含め、候補因子のJA/ET系シグナル伝達経路での位置づけやJAシグナル伝達の調節機能を解明することが課題である。

さらに、JA/ET系MAPKを負に制御するMAPKフォスファターゼの発現抑制により、虫害抵抗性が強化される可能性を示したことは新規性があり今後の研究の展開が大いに期待できる。

 

中課題B「植物に誘導抵抗性を付与するシグナル物質の探索」

(独立行政法人農業生物資源研究所 瀬尾 茂美)

MAPキナーゼ活性化ジテルペン、WAF-1がタバコに病原菌抵抗性を誘導する活性を持つとの予備的実験結果を発展させ、WAF-1類縁体の構造活性相関から、抵抗性誘導機構に関与する可能性のあるトランスポーターを同定している。抵抗性誘導機構の解明には多面的なアプローチを要するが、標的物質の投与が、タバコやトマトの病原菌抵抗性を増大させることを示した意義は大きい。

また、病害抵抗性が誘起されたタバコやトマト中に存在する物質が、ナミハダニに対する抵抗性を誘導したという興味ある知見が得られており、種々の生物素材中からの新規の病害抵抗性誘起化合物を単離することは試みる価値のある研究であり、研究の進展を期待する。

化学構造と生物活性との相関研究に基づき、より抵抗性誘導活性の強い化合物の合成に発展できればすばらしい。

 

中課題C「害虫防除のための抵抗性誘導手法の評価」

(独立行政法人農業環境技術研究所 望月 淳)

本中課題は、中課題Aと中課題Bとの連携を前提に虫害抵抗性の評価を担うことから、課題としての独立性・独自性はやや乏しいが、摂食様式の異なる害虫に対するタバコおよびトマトの抵抗性を、防御関連遺伝子の発現誘導様式と昆虫の生存率とを用いて評価する手法を開発するなど一定の成果を挙げている。即ち、本手法を用いて、MAPキナーゼカスケード遺伝子導入組換え植物およびWAF-1とその類縁体の虫害抵抗性の評価を行い、WIPK遺伝子過剰発現タバコ植物、SIPKK遺伝子過剰発現タバコ・トマト植物および中課題Bで検討中の天然物質処理植物が虫害抵抗性を示すとの成果が得られている。また、害虫の種類、加害様式、加害程度の違いによるトマト植物の防御応答反応について、中課題Aで設定した指標遺伝子の発現解析を行っており、一定の進展が認められ、今後の研究の発展を期待する。