生物系特定産業技術研究支援センター 研究資金業務

イノベーション創出基礎的研究推進事業(終了)

2010年度 中間評価結果

植物糸状菌病制御のためのヴァイロコントロール因子導入法の開発

研究代表者氏名及び所属

兼松 聡子(独立行政法人農研機構 果樹研究所)

評価結果概要

本研究は、難防除果樹病害を引き起こす白紋羽病菌と紫紋羽病菌について、菌中に存在するマイコウイルスの同定・特性解析を進めつつ、病原性を低下させるウイルスを探索してヴァイロコントロール(以下:VC)因子として活用することで新しい防除技術を開発する試みであり、個別研究と連携・統括的研究が適切に推進され、中間時目標は概ね達成された。特に、新たに発見したmegabirnavirus(RnMBV1)がVC因子として病原性を低下させることを実証し、任意の菌株に導入・移行する手法開発に成功した点は、新たな防除法の可能性を示すものとして極めて高く評価できる。また、VC因子の菌株間移行を媒介する線虫を見出し特許出願した点は、現場での利用可能性を示唆する重要な成果である。

さらに、成果を学術論文として多数発表し、成果公表の点でも大変優れているものと判断される。今後も、当初計画に従って推進することで、最終目標が達成されると期待される。

特に、新しい防除技術開発に主眼をおき、課題間の情報交換・連携・共同を密に保ちながら推進することが重要である。なお、紫紋羽病菌は集中的に研究を進める必要がある。

中課題別評価

中課題A「細胞質不和合性の機構解明」

(神戸大学 朴 杓充,池田 健一)

VC因子の菌株間移行の障壁となる細胞質不和合性を解析し、新たなプログラム細胞死(以下:PCD)であることを明らかにし、基礎研究として優れた研究成果をあげている。

さらに、PCDの遅延には塩化亜鉛処理が有効なことを示し、マイコウイルスの菌株間移行にも成功し、中間時目標を達成するとともに、新たな防除技術開発の難関を克服した点でも高く評価できる。また、成果を学術論文として公表しつつ塩化亜鉛処理に関する特許も出願し、生物系特定産業への利用を強く意識していると評価できる。 今後は、適用範囲の広いVC因子の菌株間移行手法への発展を最重要として取り組むとともに、紫紋羽病菌についてもVC因子の導入と導入菌株の特性解析を進めていただきたい。

 

中課題B「マイコウイルスの分子生物学」

(岡山大学 近藤 秀樹)

白紋羽病菌等に存在するマイコウイルスを同定・解析し、重要な知見を多数提供するとともに、新たに発見したRnMBV1が病原糸状菌の病原性を低下させるVC因子であることを中課題Dとの共同研究によって明確に示した点は、学術的にも生物系特定産業への寄与の観点からも極めて高く評価できる。 また、感染性因子の大量調製や検出・診断法についても基盤となる重要な成果を得ている。さらに、成果を一流誌に多数発表するとともに、国際共同研究や国際シンポジウムを通じて研究をリードしている点も高く評価できる。
今後は、当初計画を着実に進めることで優れた成果を上げるものと期待できる。一方で、他の中課題との協力を強固にし、多様なウイルスについて適切な優先順位付けが必要であろう。

 

中課題C「アグロバクテリウム法によるウイルス発現株の作出」

(県立広島大学生命環境学部 森永 力)

これまでほとんど成功例のない、糸状菌における遺伝子導入(形質転換)法を開発するため、白紋羽病菌、紫紋羽病菌、Botrytis cinereaを用い、Agrobacterium菌の活用を試み、全てにおいて形質転換株の取得に成功しており、中間時目標は達成されたと判断される。

本課題は終了するが、開発された遺伝子導入法や得られた菌株等は、今後も有効に活用されるものと期待される。また、学術論文や口頭発表の件数はやや少ないが、現在投稿中あるいは準備中のものもあり、成果の公表も期待できる。なお、遺伝子導入によるウイルス発現株の作出に関しては、材料を提供する他の中課題の進捗状況によって研究がやや遅れているが、本年度中にはその成果が得られるものと期待される。

 

中課題D「マイコウイルスの導入法開発とウイルス感染菌株の特性解析」

(独立行政法人農研機構 果樹研究所 兼松 聡子)

白及び紫紋羽病菌における任意の菌株へのVC因子の普遍的な導入・移行法の開発を進め、新たに発見したRnMBV1を、プロトプラストを用いて白紋羽病菌への導入に成功するとともに、新たに見出した細胞非破壊型線虫を用いたマイコウイルスの菌株間移行に成功しており、中間時目標は達成されている。特に、細胞非破壊型線虫の利用は特許出願し、生物系特定産業への活用の観点から独創性が高い。 成果は多数の学術論文や学会等で発表しており、情報発信にも意欲的であると判断される。今後も計画通りに推進することで、最終目標が達成されるものと強く期待される。特に、線虫を用いたVC因子の菌株間移行、VC因子導入による病原性低下機構の解明等を集中的に進めることが重要であろう。 一方、紫紋羽病菌についてはやや遅れ気味であり、これまで以上の研究進展を図る必要がある。