生物系特定産業技術研究支援センター 研究資金業務

イノベーション創出基礎的研究推進事業(終了)

2010年度 中間評価結果

動物の摂食・代謝・運動に関わる恒常性調節機構と調節物質

研究代表者氏名及び所属

村上 昇(宮崎大学農学部)

評価結果概要

個々の基礎的研究は相応のレベルを有し、興味深い結果を得ているが、研究が多岐に亘っていて焦点が絞られていない。 したがって、本研究の最終目標が日本の畜産振興(食肉やミルクの増産、効率性)への貢献であるとすれば、本研究結果がどのような形で具現化されるかが明確に示されていない。研究課題Bが脱落したことを差し引いても中課題Aと中課題Cの連携が明確ではない。また口蹄疫問題が障害となったとしても、はっきりとした方向性が見えてこない。今後、個々の研究結果の何を、どの部分へ活かし、いかなる成果として現れるのかを明らかにしつつ、目的の達成を見据えた方向性の明確な研究を進めていただきたい。

また、多額の研究費を使っているにもかかわらず、国際誌への掲載が若干少ないように思われる。妥当な結果を得られたならば直ちに論文、学会等へ速やかに公表されることを期待したい。

中課題別評価

中課題A「動物の摂食・代謝・運動・熱生産のクロストークの解析」

(宮崎大学農学部 村上 昇)

摂食、運動、代謝調節の関連性について、おもに種々のモデルラットを用いて、検討を加えている。 比較的新しいサイトカインが中枢神経系への作用、中枢神経系を介しての摂食、運動への影響を調べたものである。まず、ニューロメジンSの体温上昇効果、心拍数や血圧増加作用、レプチンとの中枢神経系での連関性、吸乳によるオキシトシン分泌との関わり、さらにグレリンの神経芽細胞やグリア細胞の増殖誘導などは新知見であろう。また、レプチンとグレリンは摂食行動、運動量、脂肪燃焼に関して相反する効果を有する点は興味深い。ただ、運動、睡眠(レム、ノンレム)、覚醒〔脳波〕については特に基底核を中心に研究を行っている研究者によってヒトにおいて研究が進められている。また歩行運動と循環、エネルギー消費については歩行運動の研究者によって進められていて、個々の研究課題は生物学上極めて重要な分野である。よって研究内容を整理し、フォーカスを絞り、実際の畜産学へいかなる貢献を果たすかを、まず提示して研究の方向を修正すべきであろう。

 

中課題C「食行動を制御する臓器間クロストーク機構の解明」

(宮崎大学フロンティア科学実験総合センター 伊達 紫)

レプチン、グレリンなどのサイトカインと中枢神経系(中脳)、自律神経、特に迷走神経、摂食行動との関連性ならびに脂肪細胞の肥大化メカニズムと新規分子との関係について検討したものである。摂食を増すグレリン、摂食を抑制するCCKの効果は迷走神経を介して食行動に影響を与え、中脳が切断されると、その効果が減弱されるが、一部は血液循環で効果が残ること(BBBを通り)、高脂肪食耐性ラットの繁殖、本ラットの特性の検討など、生物学的に意味のある、等の重要な成績を発表している。これらの知見はヒトの肥満に対する基礎研究ということでは成立するが、畜産とどう関連付けるのかが見えてこない。たとえは、中課題 Aについても同じであるが、脂肪組織の多いまたは脂肪のおいしいウシやブタを作ってどう利用するのか?世は体脂肪を減らすべくデザインした低カロリー食品が売れている。これを低次元のことと考えずに、実際の畜産学の貢献をまず提示すべくテーマを絞り込んでほしい。その提示がない状況下では農研機構でのイノベーション創出に結びつきにくい。