生物系特定産業技術研究支援センター 研究資金業務

イノベーション創出基礎的研究推進事業(終了)

2011年度 中間評価結果

インシリコ分子設計とナノ技術を駆使した牛白血病ワクチンの開発

研究代表者氏名及び所属

間 陽子(独立行政法人理化学研究所 基幹研究所)

評価結果概要

本研究では、細胞性免疫の拠点である主要組織適合抗原クラスII分子(MHC分子)に最も良く適合する牛白血病ウイルス(BLV)のペプチド断片をコンピュータ利用シミュレーションに基づいて選出(インシリコスクリーニング)し、MHC分子に効率良く結合させることにより、細胞性免疫を主導させた牛白血病のワクチン開発を目指す。研究は概ね順調に進んでいる。BLVのGag蛋白由来のP12-4ペプチドがMHC分子に最も適合することを明らかにし、また、このペプチドをMHC分子に効率良く送り込むための担体として炭酸アパタイトが最も優れていることを明らかにした。この候補ペプチドの効力をin vitro試験で調べたところ、ヘルパーT細胞1型(Th1型)細胞性免疫を効率良く誘導することが判明した。in vitro試験でのこれらの研究結果を踏まえ、種々の病態の牛(健康牛、未発症感染牛、白血球増多症牛、白血病発症牛)に投与して、BLVワクチンとしての可能性があるか否かの評価を行ないつつある。MHCの多型性に立脚したワクチン開発は新しい試みであり、牛白血病だけでなく、他の感染疾病の制御のためにも有用な結果が得られる可能性がある。

今後の研究の進め方としては、概ね計画通りで進めることで良い。今後は、in vitroでの結果を速やかに牛のin vivo試験で確かめる態勢にして欲しい。有効なワクチン開発成功のためには2つの機関の共同研究の進展が欠かせないので、より緊密で連携の取れた共同研究を期待する。

中課題別評価

中課題A「インシリコスクリーニングを用いた生分解性ナノ粒子固定化ペプチドの創出」

                                           (独立行政法人理化学研究所 間 陽子)

当初の計画に従って順調に成果を上げている。インシリコ分子設計とナノ技術を使用してMHC分子の3次元構造を予測する技術を開発したこと、免疫誘導能の高い候補ペプチドであるp12-4を選択し、生分解性ナノ粒子の固定化による候補ペプチドのデリバリー法を順調に開発したことは高く評価できる。また、他の難治感染病対策のためにも応用性の高い基礎技術と考えられる。

今後の研究の進め方としては、概ね研究通りに進めることで良い。候補ワクチンの効果(BLV伝播の抑制効果、病態進行抑制効果、感染防御効果)を検証するため、実施機関を変更しているが、3年間の研究実績を否定することにつながる印象を受ける。この変更の理由を明確にすることが求められる。

 

中課題B「生分解性ナノ粒子固定化ペプチドのウシ個体への投与試験」

             (財団法人日本生物科学研究所 布谷 鉄夫)

当初の研究計画に沿って牛個体への投与試験を可能とする準備は整ったと評価できるが、これまで準備した、目的とする効果の判定につながる牛の選抜、頭数で十分と言えるかやや不明である。実験施設の改装後にあっても、試験に供することができる動物頭数が限られることは問題である。事前に必要頭数の見積もりを精度良く行うべきであった。

今後の研究の進め方としては、候補ペプチドがワクチンとして有効かどうかをより正確に検証するためにも、使用する牛の頭数を大幅に増やし、また、改修済みの実験施設を積極的に活用する工夫をして欲しい。

BLV伝播の抑制効果、病態進行抑制効果については理化学研究所での実施に変更されているが、研究目標達成の観点からの合理的な説明とそのメリットの具体化が求められる。