生物系特定産業技術研究支援センター 研究資金業務

イノベーション創出基礎的研究推進事業(終了)

2011年度 中間評価結果

画期的米油原料用稲の育種・利用に向けた基盤的技術シーズの開発

研究代表者氏名及び所属

佐藤 光 (九州大学大学院農学研究院)

評価結果概要

本プロジェクトは、味、栄養バランス、品質安定性が良い優れた食用油である米油について、コメのリソース開発から搾油技術や加工利用技術までを含めた研究である。研究代表者の指導による中課題間の連携が図られ、研究は概ね計画どおりに進み、当初設定した中間時目標は達成されていると判断された。これまでに、ミクロアッセイ分析法の開発、高脂質含量関連遺伝資源やリパーゼ関連遺伝資源の発掘と作出、ゲノム育種のための分子マーカーの基礎的データ収集、既存品種の米油加工適性の評価、圧搾米油の製法確立、既存品種の胚乳部の評価法確立、製油脱脂物の食品素材としての評価が進んだ。今後も、当初計画に従って推進することで、最終目標が達成されるものと期待される。

なお、遺伝育種分野における素材や選抜マーカーに関する成果は、イネ育種に受け渡され、実用品種の育成に役立つ。しかし、遺伝的背景に関係なく、新規特性自体が本プロジェクトにおける最終目標の達成に寄与できるのか、どの程度の寄与を示すのか、理想型として何種類の特性を組み合わせることが必要か等、実用化を見据えて基本的な課題を検証することが必要不可欠である。そのため、中課題A・Bと中課題Cがより一層連携して、新規リソースとそれを用いた加工利用技術によるアセンブリーのモデル実験に取り組むような積極的な姿勢を期待する。また、研究成果情報の発信と知的財産の確保にも一層の取り組みが必要である。

 

中課題別評価

中課題A「高脂質含量稲品種のゲノム育種のための分子マーカー及び育種素材の開発」  

                  (九州大学大学院農学研究院 佐藤 光)

巨大胚突然変異体の作出に加えて、米油貯蔵組織の形態的特性や脂肪合成・蓄積に関する遺伝資源や変異体の選抜が着実に進捗し、遺伝育種学研究や実際育種への貢献が期待される多様で独創的なリソースが開発されている。また、脂肪代謝関連遺伝子の塩基配列情報を利用したTILLING法による変異の検出は、標的遺伝子座における対立遺伝子の探索にとって非常に有効な方法であり、米油関連の遺伝子多様性の拡大に貢献できる。今後は、当初計画に沿った着実な研究推進を進めて頂きたい。なお、リソース開発は進んでいるものの、原著論文の発表が極めて低調なので、情報発信について一層の取り組みが必要である。

 

中課題B「低リパーゼ活性稲品種のゲノム育種のための分子マーカー及び育種素材の開発」

(独立行政法人農研機構・作物研究所 鈴木 保宏)

糠分離後の米油の急速な劣化を防ぐためには、脂肪分解に係わるリパーゼの働きを低下させる必要がある。小麦胚芽リパーゼ抗体を用いたリパーゼ変異系統の選抜、イネのリパーゼ遺伝子の同定、米リパーゼの精製、構造解析及び発現解析、TILLING法によるリパーゼ遺伝子変異の検索等の成果を上げ、研究計画をほぼ達成していると見なされる。今後は、当初計画に従い研究を推進するとともに、成果の中には、科学的にも興味深い成果が含まれているので、さらに論文や特許による研究成果情報の発信と知的財産の確保にも取り組むことが今後の課題である。

 

中課題C「品質・特性のミクロアッセイ法及び品種特性を生かすための加工・利用技術の開発」

(カルビー株式会社 羽藤 公一)

米糠と胚乳の効率的利用を可能にするためのミクロアッセイ法開発や米油原料に適したイネの新規特性を活用した加工利用技術の開発で成果を上げ、中間時達成目標を達成したと評価できる。とくに、少量サンプルによる評価法や玄米一粒を用いた非破壊分析法は、中課題A、Bで取り組んでいる変異体の選抜に適用され、選抜に成功している。また、含油組織と製油後に残る胚乳組織を含む米全体の高度利用を目指した多様な技術開発が行われており、産業界への寄与が高い成果が得られている。今後は、当初計画に沿って研究を進めることで、実用性が高い米油用の加工利用技術シーズが開発されると期待できる。また、成果の論文化等の外部発信を鋭意努力することが必要である。