生物系特定産業技術研究支援センター 研究資金業務

イノベーション創出基礎的研究推進事業(終了)

2011年度 中間評価結果

イソマルトメガロ糖の生産技術開発・生理作用評価・ナノ素材構築

研究代表者氏名及び所属

木村 淳夫 (北海道大学大学院農学研究院)

評価結果概要

本研究課題は、我が国の澱粉の高度利用の観点から澱粉を出発基材とし、酵素法を駆使して新規な直鎖および環状イソマルトメガロ糖の生産技術を開発し、我が国独自の新たな産業素材としての糖質素材を開発することを目的としている。

課題全体の研究進捗状況は計画に沿って概ね順調に進んでいる。メガロ糖の生産に関しては、直鎖糖と環状糖をそれぞれ中課題が分担し、生産性の向上を図ってきており一定の成果を収めている。しかし、直鎖メガロ糖に関しては構造上の純度と出発基材が、環状メガロ糖に関してはより高重合度の環状メガロ糖の合成が取り組むべき課題となっている。両中課題とも今後2年間で澱粉を出発基材としたメガロ糖生産のための生産技術を目指し、単なる研究開発に終わらないで、実用研究に向けた取り組みを期待したい。一方、直鎖および環状メガロ糖生産関連酵素に関するメガロ糖生産向上の為の改変・修飾技術に関しては学術的評価の高い基礎的研究成果を収めてきており、本課題への成果の還元が今後大いに期待できる。

メガロ糖の利用形態の課題においては、構造の明確なメガロ糖の安定供給体制の構築を早急に行うべきである。また、食品素材開発において、これまでに様々なオリゴ糖の開発がなされている中で、当該メガロ糖の特徴を生かし既存オリゴ糖と差別化し得る素材の開発が課題である。

 

中課題別評価

中課題A「直鎖イソマルトメガロ糖の生産技術開発および生理評価」

      (北海道大学大学院農学研究院 木村淳夫)

マルトオリゴ糖を出発基材としてデキストラン・デキストリナーゼ(DDase)C末端削除体を利用した直鎖メガロ糖の量産化技術については、生産性および収量において評価できる成果を挙げているものの、生成メガロ糖の純度と出発基材において課題が残る。残された2年間で当初計画どおり澱粉を出発基材としてメガロ糖を効率よく生産するシステムを早急に確立すべきである。その際、α-1,4結合グルコース残基除去の方法について全力で問題解決に当たるべきである。供給可能になったメガロ糖を用い、生理活性作用評価を実施した結果、メガロ糖特有の有意なフラボノイド吸収効果を見出している。さらに、素材化に向け、構造の明確なメガロ糖の安定供給に応える体制を整えるべきである。

 

中課題B「高包接性環状イソマルトメガロ糖に関する生産技術・新素材の開発」

(独立行政法人農研機構 食品総合研究所 舟根和美)

重合度10~30の環状イソマルトメガロ糖の生産システムの完成が当初目標である。澱粉(α体)を出発基材に、環状メガロ糖の生産性を高めるために変異導入した環状糖合成酵素(CTIase)を用い、重合度9~13程度の環状メガロ糖の生産性向上に成果を挙げている。本成果は、より重合度の高い環状メガロ糖生産性向上を目指した今後の技術開発として示唆に富む価値ある研究である。残り2年間で、低重合度環状メガロ糖(重合度10~13)生産システムのさらなる生産性と収率の向上を目指した実用化研究を優先して進め、独自の機能性素材を創出することを期待する。

 

中課題C「酵素の立体構造解析によるイソマルトメガロ糖認識機構の解明」

                   (独立行政法人農業生物資源研究所 藤本 瑞)

環状イソマルトオリゴ糖生産酵素(BcCITase)が、いかにして高選択的に重合度8の環状糖を生成するか、その環状化機構を分子論的に解析し注目に値する成果を収めている。この環状化機構に基づいて、酵素改変を行い重合度10~12程度の環状メガロ糖を高選択的に生産させるための変異酵素の作成に成功し、独自の酵素改変に関する概念を提唱している。一連の成果は学術的にも高く評価できる。この新しい概念が、より重合度の高い(重合度15以上)環状メガロ糖生産技術に適用できれば、分子デザイン戦略的観点から科学的にも極めてインパクトの高い価値ある成果となる。

 

中課題D「酵素合成イソマルトメガロ糖の物性解明と機能性ナノ材料への展開」

(大阪府立大学大学院生命環境科学研究科 北村 進一)

当初計画通りメガロ糖に関する定量・分析法、単一重合度の分画法の確立、包接能等の理化学的特長など物性解明に有用な基礎的データを集積してきている。環状分岐イソマルトメガロ糖とフラーレン相互作用を利用した水溶性向上と抗酸化性の検証、両親媒性メガロ糖のミセル形成能を利用した膜タンパク質の取り込みを介したリポソームへの移行の検証など、先駆的取り組みであり実現すれば新素材として産業的価値も高い。これまでに得た研究成果を早急に原著論文として公開することを望む。