研究代表者氏名及び所属
津村 義彦(独立行政法人森林総合研究所 森林遺伝研究領域)
評価結果概要
本研究では、ゲノムワイドアソシエーション解析を用いて、成長が早く材質の良いスギ品種の選抜が可能なモデルの作成を行う。研究はおおむね順調に進んでいる。高密度連鎖地図の構築により様々な遺伝子解析の可能性が提供された。BACライブラリーの構築によりスギゲノムの様々な特徴の解明が可能になり、新たな学術上重要な発見がもたれされた。精英樹次代検定林に関しては、クローンの同定や新たな計測により、アソシエーション解析に供することのできるより高精度なデータセットを入手した。
今後の研究の進め方としては、概ね計画通りに進めることで良い。今後は、最終的な目標であるジェノミックセレクションの実現に必要な課題を整理して、各中課題相互の連携を一層強化した中で研究を進めて欲しい。スギのような樹木では、育種年限をいかに短縮するかは大変重要な課題である。特にスギのようにゲノムサイズが大きく、繰り返し配列の多い樹木で長年月かかる形質評価を待たず、マーカーの存在により優良木を選抜できることは大きなメリットがある。従来型育種で進められているスギエリートツリーの開発に本ジェノミックセレクションを合体させ、優良クローンの早期取得による伐期の短縮などを図り、日本林業の再生の一助として欲しい。
中課題別評価
中課題A「ゲノムワイドなアソシエーション研究と分子育種基盤の整備」
(独立行政法人森林総合研究所 森林遺伝研究領域 津村 義彦)
当初計画に従って堅実に成果を上げている。ジェノミックセレクションについてもその実現可能性が示された。これまでの研究成果に加えてさらに高密度のマッピングを達成している。さらにマップの集積度を上げることによって様々な可能性が期待できる。SNPsを使ったジェノタイピングが進められており、予測精度の向上が期待できる。その成果を様々に適用してスギの遺伝的多様性の実態に迫るなど幅広い応用研究を展開しており、評価に値する。ゲノム全体をカバーするBACライブラリーが構築されており、今後雄性不稔遺伝子の単離などの課題についても更なる成果が期待できる。
今後の研究の進め方としては、当初計画通りに進めることで良い。他の中課題との連携を密にして、研究課題全体の目標の達成に向けた取組みを期待する。
中課題B「スギ精英樹の形質データの再測定及び次代検定林データの収集とりまとめに関する研究」
(独立行政法人森林総合研究所 林木育種センター 渡邉 敦史)
ほぼ計画通り進捗している。適正なデータのクリーニングが行われた。スギ精英樹の遺伝子型データベースが構築でき、植栽ミスなどの個体を除いた上で成長特性に関する形質データの再評価によって、各形質の遺伝率が向上した点は評価できる。
今後は、アソシエーション解析のためのデータはどのようなものが適切か、どのような形質についての情報が有用化などについて、新たな視点から明らかにすることで、本研究の成果がより生かされるものと考えられる。他の中課題との連携の中で、それらを明らかにすることが必要である。
有効なジェノミックセレクション法を確立するには、いかに詳細な形質データを取得するかが重要である。材質や雄花着花性だけでなく、ジェノミックセレクションに適した形質とは何か、別の形質についても精査し、より強固な結果を出すことができれば、将来の可能性が大きく広がるものと期待される。FAKKOPによる材強度測定結果とSNPジェノタイピングの関連解析では必ずしも高い予測結果は得られていない。材強度との相関が高いミクロフィブリル傾角の評価に着手することとしているが、強度に影響を与える可能性のある他の因子についても調査して欲しい。
中課題C「スギの連鎖不均衡データを用いたジェノミックセレクション解析法のモデルの作成」
(九州大学大学院 理学研究院 舘田 英典)
一部遅れは見られるものの、全体としてはほぼ十分な成果が得られている。スギゲノムには未知の繰り返し配列が多いこと、遺伝子に大きなイントロンがあり通常は遺伝子とはみなされないため遺伝子を単離する上では注意が必要であること、100kb程度の範囲では連鎖不平衡の減衰は認められないことなどの成果が得られた。成果は、学術上国際的に十分評価できるものなので積極的な投稿を期待する。明らかになった針葉樹のゲノム構造の特徴などに基づいて、ジェノミックセレクション等の新たな方向性が見出される可能性が高い。研究期間内に、他の中課題との連携により具体的な選抜のための仕組みの理論的構築を期待する。
研究は当初計画通りに進めることが重要である。スギのゲノム構造に関する研究をさらに発展させるとともに、早い時期にジェノミックセレクションの最適手法を提案することによって、研究期間内での何らかの実用的な選抜の試みにつなげることを期待する。