生物系特定産業技術研究支援センター 研究資金業務

イノベーション創出基礎的研究推進事業(終了)

2011年度 中間評価結果

大果果実の作出に向けたバラ科果樹枝変わり大果変異の機構解明

研究代表者氏名及び所属

白武 勝裕(名古屋大学大学院 生命農学研究科)

評価結果概要

本プロジェクトでは、枝変わり変異で生じたセイヨウナシ大果変異系統を対象に、ゲノム・トランスクリプトーム・プロテオーム・メタボロームの網羅的解析により、大果DNAマーカーの開発、大果の原因候補遺伝子の単離、大果形質発現の鍵遺伝子や重要代謝物の特定を行うことを目指している。果実の大型化という切り口で、果実肥大や成分変動等、果実生理の理解を深める基礎的情報を提供するという側面では、ほぼ順調に進展している。マイクロダイセクションの適用、新型シーケンサーを利用した発現プロファイリング、代謝マップの作成など、新規技術の導入で、新規な情報が得られたものと高く評価できる。

一方、大果変異に関する遺伝学的解析の遅れが、チーム全体の研究進捗と密接に関わるため、今後早急に解決されなければならない課題である。この遺伝学的解析は、果実大型化の要因解析の切り口となるため、取組みの強化が必要である。

次世代シーケンサーを利用した大規模EST解析と新規格マイクロアレイを活用することで、取得データ量や解析スピードを飛躍的に改善させようとする計画変更は合理的かつ適切である。特に、枝変わり系統と原品種の全ゲノムシーケンスを導入する計画は大果の原因遺伝子の同定に直結する可能性があり、大いに成果が期待できる。留意すべき点については既に適切に修正が加えられ、全体としてほぼ順調に進捗している。

 

中課題別評価

中課題A「大果変異セイヨウナシのゲノム解析」

(山形県農業総合研究センター園芸試験場 高品 善)

これまでに、果実特異的染色体倍加時期が予想よりはるかに早い果実形成初期段階であることやエンドマイトーシスによるものであることなどを明らかにした。染色体倍加時期の決定に関する研究成果は高く評価できる。一方、早期開花性遺伝子の導入による分離集団の作成では遅れがみられる。大果変異の原因遺伝子のマッピングは、本中課題の中心であり、エンドマイトーシスの検定が安定してできる技術を早急に確立すること、および、エンドマイトーシスの誘起に関わる遺伝子座のマッピングを効率良く行えるよう工夫することに留意した研究の取組みが必要である。FT(+)個体のうち、細胞学的観察により、エンドマイトーシスを起こす系統と起こさない系統の数が十分には揃わない段階であっても、連鎖群への割り当ては可能と考えられ、フレキシブルな取組みを期待する。一方、大果系統のリシーケンスを新たに採用することは、適切な選択であり、次世代シーケンサーを用いた全ゲノムシーケンスでの成果が強く期待できる。

マッピング自体に遅れが見られることで、論文などを通じた公表も遅れがちであるため、今後の研究を一層加速して欲しい。

 

中課題B「大果変異セイヨウナシのトランスクリプトーム・プロテオーム解析」

(名古屋大学大学院 生命農学研究科 白武 勝裕)

果実の大型化における果肉細胞の核内倍加と細胞肥大について、当面は別個に整理して解析すべきである。ただし、研究上の困難さが見られた課題については、重点移動を含めて適切に修正されており、ほぼ順調に進んでいる。

次世代シーケンサー解析を導入した花床組織でのトランスクリプトーム解析は大きな成果を上げている。大果原因遺伝子の探索に向けた微細組織における新規格トランスクリプトーム解析の着実な実施および全ゲノムシーケンスとの連携が重要である。困難は予想されるが、ターゲットを絞ったプロテオーム解析によるサポートも必要である。一方、高シンク能に関わる一連の現象に対して、遺伝子発現とタンパク質動態解析から明らかにされることを期待したい。候補遺伝子の検証において、培養細胞の利用、シロイヌナズナやトマトの形質転換体作成は理解できるが、セイヨウナシでの形質転換は残りの研究期間を考えると無理があるのではないか。遺伝子の機能解析は、これからの重要課題であるので、今後はより集中した取組みが望まれる。

研究成果については、論文発表の準備が進められているが、その公表を急ぐべきである。

 

中課題C「大果変異セイヨウナシのメタボローム解析」

(理化学研究所 植物科学研究センター 及川 彰)

果実の代謝物の網羅的解析についてはこれまでほとんど試みられてこなかったが、解析手法を新たに確立し、果実発育・成熟過程を通じた第一段階の解析が順調に進行したことは高く評価できる。これまで順調に解析を実施し、基本的な代謝マップの作成を前倒しで進めていることから、今後も新規物質の同定を中心としたメタボロミクスの進展が強く期待される。また、果実発育・成熟を追ったトランスクリプトーム・プロテオーム・メタボローム解析の着実な実施とその統合解析によるシステムバイオロジー的アプローチによって、果実生理の理解が深化することが期待される。

研究は当初計画より前倒しで進んでおり、公表を含め、より一層の展開が期待される。