生物系特定産業技術研究支援センター 研究資金業務

イノベーション創出基礎的研究推進事業(終了)

2012年度 中間評価結果

生体内ピンポイントDDS技術による家畜疾病防御ワクチンの創製

研究代表者氏名及び所属

黒田 俊一(名古屋大学大学院生命農学研究科)

全体評価

本研究の目的は、家畜・家禽に臨床応用可能な革新的ワクチンプラットフォームを創製することにある。その実現のために、ワクチンプラットフォームのターゲットとして抗原提示細胞の1つである脾臓の樹状細胞(DC)に的を絞り、バイオナノカプセル(BNC)や抗原融合三部構成免疫賦活システム(TIPS)を用いてこれに様々な修飾を加え、必要に応じて両者やリポソームを組み合わせることにより、次世代高機能ワクチン用プラットフォーム技術の確立を目指す。研究は概ね順調に進んでいる。BNCについては従来型BNC(ZZ-BNC)のプロテインAをプロテインG等のIgG Fc結合部位に置き換えたものを作製した。また、DC認識抗体付加ZZ-BNCのDCへの標的化、マウスへの投与による脾臓、リンパ節への集積を確認した。日本脳炎ウイルスを用いた研究では、マウスに対する皮下(SC)投与の有効性が高いことを示した。また、TIPSは抗原単独より防御効果が高かった。豚回虫抗原融合BNCについては、マウスに投与して誘導した抗体に回虫不動化能が有ることを確認した。ニューカッスル病ウイルスについては全塩基配列を決定すると共に2種類の組換え抗原蛋白質を調製した。生産技術としてはベースになるZZ-BNCについて生産効率が目標には達しないものの一定の向上が見られ、TIPSについては目標を達成できた。

今後の研究の進め方の基本はこのままで良いが、「家畜・家禽疾病防御ワクチンの創製」を現実のものとするためには、豚や鶏を用いた研究を重点的に行うことが今後必須となる。

 

中課題別評価

中課題A「バイオナノカプセルに関する基礎研究」

      (名古屋大学大学院生命農学研究科 黒田俊一)

研究は当初の目標をほぼ達成し、順調に進捗している。研究成果も得られている。in vitroでDCの8割以上に結合するDC抗体提示型ZZ-BNCを開発し、マウスへの静脈内(IV)投与により脾臓の6割のDCを感作し、SC投与および筋肉内(IM)投与 でリンパ節に集積することを確認した。また、他グループがマウスを用いて感染防御実験を行うために使用する日本脳炎ワクチン用抗原含有BNC、日本脳炎DNAワクチン含有BNC、豚回虫抗原およびリーシュマニア抗原融合BNCを調製した。さらに、ZZ-BNC単独でも充分にDC標的化能があることを明らかにした。また、BNCの機能向上に向けた基礎的研究をしっかり行っている。

今後の研究の進め方としては、概ね計画通りに進めることで良い。特に、BNCによるDC標的後のワクチン抗原の送達率の向上、抗原ペプチドのMHC分子への発現の確認、液性免疫応答や細胞性免疫応答に関する詳細な解析およびBNCのマンノースによるレギュラトリーT細胞の誘導の有無についての解析をしっかり行って欲しい。

 

中課題B「バイオナノカプセルの改変体作製及び量産化技術の確立」

      (大阪大学産業科学研究所 谷澤克行)

研究は概ね計画通りに進捗し、研究成果も得られている。ZZ-BNCのプロテインA由来IgG Fc結合ドメインをプロテインG由来ドメインに入れ換えたBNCを作製して抗体結合能が優れていることを示すとともに、プロテインLの結合ドメインに入れ換えたものも作製して特性を解析し、DCへの投与を試みた。また、生産効率を向上させるため高発現株の選択を行ったところ、目標値には達しないものの、生産効率の向上が見られた。さらに、BNCに結合させる分子量の小さい人工抗体の作製も進めている。

今後の研究の進め方としては、概ね計画通りに進めることで良い。特に、生産効率の向上とコストの低減化はBNCの実用化に直接関わるので、今後は量産化技術へのさらなる取り組みが必要である。

  

中課題C「多量体形成分子に関する基礎研究」

      (琉球大学熱帯生物圏研究センター 新川武)

研究は概ね計画通りに進捗し、順調に研究成果が得られている。コアブロックを改変してTIPS 4量体より5量体の方が安定性が高いことを明らかにし、リガンドを変更したものよりはプロテインG由来のものが一番効果が高いことを示した。マウスについて日本脳炎ウイルス抗原単独よりTIPSに融合させた方が感染防御効果が高いことを示した。また、TIPSの生産技術として、生産が簡単な遺伝子融合法を開発し、50 mg/L培地以上の生産を可能にした。

今後の研究の進め方としては、概ね計画通りに進めることで良い。TIPSをBNCの表面に乗せることによってBNCの標的化能や免疫賦活能が高まるかどうかは、TIPSを構成する3要素、特に抗原とリガンドをBNCに結合させた後でも機能を発揮するかどうかによると思われるので、この点を速やかに見極めて開発の方向性を決め、家畜用ワクチンプラットフォームの開発に取り組んで欲しい。

 

中課題D「バイオナノカプセルを用いるワクチン候補の感染防御能の検討」

      (東京大学大学院農学生命科学研究科 松本安喜)

研究は概ね計画通りに進捗している。豚回虫As16融合BNCで免疫したマウスの血清に回虫不動化能があることを確認した。また新規の強毒型ニューカッスル病ウイルスの全ゲノムの塩基配列を決定した。当初予定していたマウスを用いた豚回虫の防御効果についての結果を得るに至っていないが、ニューカッスル病ウイルスとリーシュマニアの防御抗原も同定されているので、今後の課題推進に大きな問題はないと思われる。

今後の研究の基本的進め方としては、概ねこのままで良い。この中課題は家畜疾病に直接関わる部分を担っているので、今後は、豚や鶏などの家畜・家禽を用いた感染試験を行って免疫応答を詳細に解析し、BNC等の家畜・家禽用ワクチンプラットフォーム開発に取り組んで欲しい。

 

中課題E「ワクチン候補のマウスを用いた免疫学的解析」

      ((株)ジェクタス・イノベーターズ 瀬脇智満)

研究は概ね計画通りに進捗し、研究成果も得られている。他チームで作製した種々の試料をマウスに投与し、日本脳炎ワクチン含有NBCでは候補抗原としてはE蛋白質ドメインIII(D3)を選択、また投与ルートとしてSCを選定した。その結果、DC認識抗体を付加したNBCのDCへの標的化能を確認し、D3をZZ-BNC表面に提示することによって感染防御効果が増強されることを明らかにした。TIPSについては中和抗体誘導能、リガンドの改変、全遺伝子融合法と化学合成法で作製したTIPSの同等性の評価を行った。このように、構築されたBNCやTIPSのin vivoにおける評価を担い、充分に役割を果たした。

今後の研究の進め方としては、概ね計画通りに進めることで良い。今後の研究展開では、特に本プロジェクト研究で計画されたワクチンの有効性の評価を豚や鶏を用いて滞りなく遂行することが求められる。さらに、有効性評価において問題点が明らかになった際には、速やかにフィードバックし、ワクチンの改善を図るといった対応が必要となる。