生物系特定産業技術研究支援センター 研究資金業務

イノベーション創出基礎的研究推進事業(終了)

2012年度 中間評価結果

アミノ酸シグナルを利用した高品質食資源の開発技術の確立

研究代表者氏名及び所属

高橋 伸一郎(東京大学大学院農学生命科学研究科)

全体評価

本研究は、低タンパク質食あるいは必須アミノ酸不足食の給餌により誘導される体内情報「アミノ酸シグナル」のコントロールに基づいた、家畜動物・魚類の高品質食資源の開発技術の確立を目指している。これまでに、ラット、マウスで低タンパク質飼料等と給餌タイミングなどを検討し、肝臓あるいは筋肉に脂肪蓄積するモデル系の作に成功した。またアミノ酸シグナルからインスリンシグナルへの繋がりや、肝臓や筋肉の脂肪蓄積を誘導するシグナル経路の分子生物学的な解明を進めつつある。さらに、ニワトリ(ブロイラー)で、低タンパク質飼料給餌を数日間行うことで白肝を作成すること(特許出願済み)や、ムネ肉を軟らかくすることに成功した(特許出願済み)。ブタでは、リジン不足のみで筋肉に脂肪交雑することを明らかにした。本研究の最終目標を達成するためには、肝臓および筋肉で臓器特異的に脂肪を蓄積させる新しい技術の開発が必要である。ラット、マウスのモデル系における肝臓・筋肉での脂肪蓄積のメカニズムの分子生物学的な研究をさらに進めて、実用化に結びつけてほしい。

 

中課題別評価

中課題A「アミノ酸シグナルのモニターシステムの解明、アミノ酸シグナルに応答した脂肪蓄積系の変動の解析と魚類を

            用いた高品質食資源開発技術の確立」

      (東京大学大学院農学生命科学研究科 高橋伸一郎)

低アルギニン状態では肝臓に、低リジン状態では筋肉、脂肪細胞に脂肪蓄積を発現するモデルラット系の作製に成功し、肝臓で脂肪蓄積に関与する遺伝子・諸因子やインスリンシグナルの下流因子の特定が進んだ。DNAマイクロアレイを用いる解析を進め、低タンパク質食給餌で脂肪が蓄積した肝臓に於いては、解糖系の酵素や脂肪酸合成酵素の発現が高くなる脂肪蓄積機構を解明した。魚類を用いた高品質食資源開発技術の確立については、魚類のエネルギー代謝関連タンパク質遺伝子13種類のクローニング、それらの塩基配列決定、およびアミノ酸配列決定、20種類の特異的抗体作製に成功した。全体的に計画を上回って順調に研究が進んでおり、今後も当初の計画に沿って鋭意研究を進めてほしい。

 

中課題B「時間依存的なアミノ酸シグナルに応答した脂肪蓄積の制御機構の解明」

      (早稲田大学先進理工学部 柴田重信)

マウスにおける低タンパク食あるいは低アミノ酸食給餌は視交叉上核と肝臓の体内時計の位相に影響がないことを見出した。このことはアミノ酸シグナルの変動が体内時計を介さずに直接肝臓や筋肉に脂肪を蓄積することを示している。1日食餌摂取量を減らす、あるいは低タンパク質食の分食により、肝臓に脂肪が蓄積することを見出した。代表的な時計遺伝子をノックアウトしたマウスにおいて、低タンパク質飼料給餌によって肝臓脂肪蓄積が増大することを示した。家畜動物であるウズラで、長日条件下における絶食と再給餌が肝臓脂肪の蓄積を効果的に増加させることを示した。以上の成果等は、中間時における達成目標をクリアしている。体内時計のメカニズムを更に追求して戴きたい。

 

中課題C「アミノ酸シグナルに応答した内分泌・代謝因子の制御機構の解析」

      (明治大学農学部 竹中麻子)

ラットで低タンパク質食摂取開始1~8時間後に、血中のインスリン濃度が有意に下がることを、さらに、血中IGF-I(インスリン様成長因子1)濃度の低下を引き起こすことを示した。また、ロイシン、フェニルアラニンあるいはバリン欠乏食摂取でインスリン分泌が低下することを示した。24時間後に肝臓のインスリンシグナル因子のIRS-2(インスリン受容体基質2)のタンパク質発現量、肝臓のトリグリセリド含量の増加が認められた。その際インスリンを付加したが、肝臓IGF-1 mRNA、IRS-2、トリグリセリドに更なる増減はなかった。以上の成果等により、中間時達成目標をクリアしていると判断された。

 

中課題D「アミノ酸シグナルに応答したインスリンシグナルの変動を介した脂肪蓄積誘導の分子機構の解明」

      (日本医科大学老人病研究所 鈴木(豊島)由香)

低タンパク質飼料給餌は、ラット肝臓におけるIRS-2と4E-BP1(翻訳抑制因子)の量およびリン酸化を増加させることを示し、インスリンシグナルにおける上流部分の役割を解明した。低タンパク質食給餌2日目から15日目までの、肝臓の中性脂肪量、4E-BP1およびIRS-2のタンパク質量とリン酸化の変動を明らかにした。再給餌により、肝臓中性脂肪の量が増加することを組織学的に示し、中課題AおよびCの結果を補強する成果となっている。ラット筋芽細胞L6 のIRS-1等の発現を抑制するshRNA(小ヘアピンリボ核酸)発現アデノウイルスを開発した。以上の結果から、計画を上回って成果が得られたと評価する。今後はラット筋肉で脂肪蓄積に関わるインスリンシグナル因子の役割の解明を進めてほしい。

 

中課題E「哺乳類・鳥類を用いた高品質食資源開発技術の確立」

      ((独)農研機構 畜産草地研究所 勝俣昌也)

ブタに低リジン飼料給餌すると筋肉中の脂肪含量が増加することを確認し、血漿インスリン濃度の低下およびIRS-1 mRNAの増加を認めた。また、ニワトリへの低タンパク質飼料給餌数日で白肝を作成できること(特許出願済み)や、ムネ肉を軟らかくすることに成功した(特許出願済み)。これは、家畜動物においても、必須アミノ酸欠乏による筋肉脂肪含量の増加へのインスリンシグナルの関与を明らかにした成果であり、飼料を用いた家禽の白肝作成および肉質改善が期待される。これらの成果は、中間時達成目標をクリアし、さらに当初の計画を上回っていると判断された。今後は、ロースの筋肉内脂肪含量平均6%となるブタを70%の歩留まりで生産するための飼料中のアミノ酸組成等を検討してほしい。