生物系特定産業技術研究支援センター 研究資金業務

イノベーション創出基礎的研究推進事業(終了)

2012年度 中間評価結果

脂質バランス栄養食品を創出する新規オメガ3脂肪酸素材の開発

研究代表者氏名及び所属

小川 順(京都大学大学院農学研究科)

全体評価

当初の計画を上回って進捗しており、微生物を用いてオメガ3脂肪酸やその代謝物の生産を担当する中課題A、およびそれらの脂質の構造と機能の解析を担う中課題Bと中課題Cが、それぞれの強みをフルに発揮し、見事にシナジーが創出され、次々と学術的にも高いレベルの成果を生み出している。従来、必ずしも明快ではなかったオメガ3脂肪酸の生理機能・栄養機能が解明されることが期待される。また、エイコサペンタエン酸(EPA)以外に産業化を目指せる新たな脂質を見出せる展開を予感させ、今後出される成果が非常に楽しみである。

以上のように、優れた成果が期待できること、および技術の実用化に必須な取り組みも必要となることから、当初の計画に沿って研究を継続すべきと判断する。とくに、実用化を視野にオメガ3脂肪酸の生産性向上を実現させる研究に注力することが望まれる。国際共同研究に関しては、植物機能を活用して油脂生産を行う研究課題に再考を要する。

 

中課題別評価

中課題A「微生物による脂質バランス栄養食品素材の生産」

           <国際共同>高等植物による脂質バランス栄養食品素材の生産

      (京都大学大学院農学研究科 小川順)

エイコサペンタエン酸(EPA)高生産株の作製に成功しており、ほぼ所期の目標を達成している。希少脂肪酸含有油脂生産に関しては、乳酸菌等の腸内細菌による不飽和脂肪酸飽和化反応機構を解明し、それらを利用した新規脂肪酸代謝物の生産方法を確立しつつある。その独創性は高く評価される。オメガ3脂肪酸生産系については、取り組みを本格化させ、生産量とコストの両面から生産性向上を目指すことが望まれる。また、稀少脂肪酸の研究は、オメガ3脂肪酸生産系に比べ偏重しないよう進める必要がある。一方、国際共同研究で植物機能を活用する取組みに関して、植物由来の特異な遺伝子を遺伝資源として活用して、微生物によるオメガ3脂肪酸等の生産に繋がることに集中していく方向が考えられる。また、追加提案された国際共同研究では、既に実施中の相手先と新規の相手先の研究内容を十分把握し再考のうえ、進められたい。解析をしっかり行って欲しい。

 

中課題B「メタボロミクスによるオメガ3脂肪酸栄養価の新しい評価系の確立と応用」

      (東京大学大学院薬学系研究科 新井洋由)

液体クロマトグラフ・タンデム質量分析計(LC-MS/MS)を用いた多重反応モニタリングにより、465種類の脂肪酸代謝物の一斉定量系を確立している。この解析系を用いて抗炎症活性を有するオメガ3脂肪酸由来の脂肪酸代謝物を新らたに見出し、新規代謝物の同定は順調に進んでいる。中間時目標を達成して、学術的価値が高い成果が得られている。終了時の目標「新規活性代謝物2つを同定する」に対して、既に一つは産生細胞や産生酵素の同定も完了しており、もう一つに関しても目処が立ち、達成の可能性は極めて高い。さらに、追加で幾つの新規代謝物の生理機能を明らかに出来るかが焦点になる。少なくともオメガ3脂肪酸由来の代謝物に関しては、様々な病態モデル動物を用いて抗炎症活性を有する物質の全容解明を期待する。

   

中課題C「脂質動態解析による脂質バランス栄養評価とリポタンパク質の質的制御」

     (京都大学 物質-細胞統合システム拠点 植田和光)

小腸、肝臓、マクロファージ、脳等、各組織における全脂質輸送体の輸送測定系を確立し、細胞遊走に関する評価系を構築した。これらの評価系を用いて、脂質輸送体活性に及ぼすオメガ3脂肪酸およびその代謝物や新規脂肪酸の影響を評価できるようになった。既に高密度リポタンパク質(HDL)形成を促進する脂肪酸を複数見出している。これまでは計画を上回る形で順調に進捗してきている。しかし、研究終了までの3つの到達目標は、中間時の目標に比べてハードルが極めて高いように感じる。終了時到達目標とその取り組み内容を整合し、中課題Aや中課題Bとの連携強化が可能な共通素材となる実用化を目指したオメガ3脂肪酸を中心に研究を進めるべきと考える。基礎研究としてのレベルは高いので、得られた成果が “これからの農林水産業・食品産業への貢献に着実につながっていく”ことを情報発信しつつ研究を進めてほしい。