生物系特定産業技術研究支援センター 研究資金業務

イノベーション創出基礎的研究推進事業(終了)

2012年度 中間評価結果

作物における有用サポニン産生制御技術の開発

研究代表者氏名及び所属

村中 俊哉(大阪大学大学院工学研究科)

全体評価

本研究は、ダイズやジャガイモなどの作物が有するサポニン産生能を、グリチルリチンやジオシンなどの有用サポニン産生力にスイッチングさせるための生合成制御技術開発を目的とする研究である。これまでに、サポニン類生合成遺伝子の探索・機能解析・同定、生合成経路中間生成物の詳細な分析とプロファイリング手法の確立、生合成経路設計と遺伝子導入による形質転換植物の作成など、有用サポニンを生産できる作物体を作り上げる目標に向けた研究を順調に展開している。ダイズおよびジャガイモを宿主としてカンゾウのグリチルリチン生合成遺伝子およびヤムイモのジオシン生合成遺伝子をそれぞれに導入することで、代謝経路を有用サポニン類の生成に導くための出発点となる重要な知見を得ている。これらの中で、ソラニン生合成における標的遺伝子を抑制したジャガイモ中に、ジオシン様の有用サポニンが蓄積することを明らかにした点は、特筆に値する。ダイズの遺伝子発現コントロールにはまだ不完全な部分があるようだが、今後の改善が期待される。研究代表者の指導による中課題間の連携が図られ、全体として研究が当初の計画を上回って進捗しており、多くの成果が得られていると判断できる。これらの成果は、機能性食品、医薬品原材料となる有用サポニンの安定供給への道を拓くものであり、生物系特定産業に与えるインパクトは大きく、その発展への寄与が十分期待できる。今後とも研究成果の情報発信と特許出願を精力的に行って頂きたい。中課題間のさらなる連携を進めながら当初計画に従って研究を推進することで、最終目標が達成されるものと期待される。

 

中課題別評価

中課題A「トリテルペノイドサポニンの代謝工学」

      (大阪大学大学院工学研究科 村中俊哉)

グリチルリチン生合成におけるトリテルペンへのグロクロン酸転移を触媒する配糖化酵素遺伝子を見出し、酵素の機能解析を行った点は大きな進展である。また、ナチュラルバリアント取得の試みの中で、カンゾウのものより酸化位置選択性が高く、グリチルリチン生産に適したP450酵素遺伝子をタルウマゴヤシから取得した点も評価出来る。また、発現遺伝子配列断片(EST)解析データからの候補遺伝子の発掘、タンパク質の発現、LC-MSによる生成物の検出に至るまでの一連の実験の道筋ができているため、今後も多数の酵素が機能同定されると考えられ、それらから有用酵素が見出されることに期待したい。情報発信は植物専門誌では最も評価の高いPlant Cellでの公表であり十分行われていると判断できるが、特許出願を含めてさらなる努力を期待する。中間目標を達成し多くの成果を得ており、中課題間の連携も良好で着実に最終目標であるグリチルリチン蓄積ダイズの作出に近づいていると言え、研究は当初の計画を上回って順調に進捗している。なお、配糖化酵素遺伝子の解明が成果のカギを握ると思われるので、速やかな解明を望む。

 

中課題B「ステロイドサポニンの代謝工学

      (神戸大学大学院農学研究科 水谷正治)

 複数種のヤムイモESTを比較することで、ヤムイモのジオシン生合成候補遺伝子を多数分離し、そのうちのいくつかを機能解明・同定したことは高く評価できる。また、ソラニン生合成に関わる酸素添加酵素、トマチン生合成に関わる酸素添加酵素と糖転移酵素の機能解析に成功し、さらなる酵素遺伝子の発見が期待できる。生合成中間体の有機合成とそのGC-MSによる分析系の構築、酸素添加酵素の昆虫細胞内での発現など、酵素の機能解析をハイスループットに進める土台もできている。研究は当初の計画を上回って進捗しており、多くの成果を得ている。情報発信は十分と言えるが、特許出願にも期待する。

   

中課題C「サポニン関連物質の分析と代謝プロファイリング

     ((独)理化学研究所 斉藤和季)

生合成経路上のサポニン関連物質の高度分析法の開発とプロファイリングは、代謝経路の解明、設計などこの課題全体の基盤技術の一つとして機能しており、大きな成果の一つである。また、ソラニン生合成経路からはコレステロールの生合成に関わる側鎖24位還元酵素を同定した。この発見は植物生理学上極めて重要である。同酵素の発現抑制ジャガイモは低ソラニンジャガイモとして大いに期待される。さらに、ソヤサポニン生合成に関わる水酸化酵素の同定、P450の変異酵素作製など、他の中課題と活発に共同研究を行い、順調に研究を進めている。研究は当初の計画を上回って進捗しており、多くの成果を得ている。原著論文の公表は1報のみであるが、植物専門誌では最も評価の高いPlant Cellでの公表であり十分な価値がある。また、キリンと共同で2件の特許出願をしており、今後特許内容の論文化も期待できる。ダイズやジャガイモにおいて有用サポニン生産への道が拓かれれば、生物系特定産業への寄与は極めて大きいと考えられる。

  

中課題D「有用サポニン蓄積ダイズの開発

      ((独)農業生物資源研究所 石本政男)

 グリチルリチン生合成に関わるP450遺伝子のダイズへの導入、発現に成功し、その結果、グリチルリチン中間体の生成に成功しており、研究が進展している。またRNAiによる遺伝子の発現抑制技術を確立しており、生合成酵素の機能解明や、物質生産宿主の構築に寄与する研究を着実に進めることができている。その中でソヤサポニンの生合成酵素の機能を明らかにした点も評価出来る。最終目標の達成のために、遺伝子の発現、宿主の代謝経路の最適化をすることが早急に求められる。研究成果は、植物専門誌として最も評価の高いPlant Cellを含む2報に報告しているが、さらに原著論文、特許申請の数を増やすことを期待する。成果は中間目標を達成しているとともに、着実に最終目標であるグリチルリチンを生産・蓄積する組換えダイズの作出に近づいていると言え、研究は当初の計画を上回って順調に進捗している。きいと考えられる。

  

中課題E「有用サポニン蓄積ジャガイモの開発

      (キリンホールディングス(株) 梅基直行

ジャガイモの遺伝子発現抑制技術を確立し、ソラニンの生合成における酸化酵素、アミノ基転移酵素など複数の酵素を同定しており、順調に研究が進捗している。特に、ソラニン生合成における標的遺伝子を抑制したジャガイモ中にジオシン様の有用サポニンを蓄積できることを明らかにしたことより、最終目標であるジャガイモ内での有用サポニン生産系の構築の実現性が大きく高まった点は特筆に値する。低ソラニンジャガイモは、通常のジャガイモと生育、形態が変わらないことも調査済みであり、生物系特定産業に大きな寄与をもたらすことが予想される。組換え体ジャガイモの作成など順調に進捗しているので、今後の研究の展開が期待できる。成果の一部は4件の特許出願に繋がっており、その後の学会発表も行っている。今後の論文発表を期待したい。

成果は中間目標を達成し、多くの成果を得て当初計画を上回った進捗と判断できる。