生物系特定産業技術研究支援センター 研究資金業務

イノベーション創出基礎的研究推進事業(終了)

2013年度 中間評価結果

糸状菌の培養環境に適応した物質生産制御システムの開発

研究代表者氏名及び所属

小林 哲夫(名古屋大学大学院生命農学研究科)

評価結果概要

糸状菌は、世界的にも有用微生物として知られ、中でもAspergillus属の研究は盛んである。本研究における制御因子の分子機能解明および転写制御マシナリー解明は、世界トップレベルの研究水準である。転写制御因子の分子機能解明については、本研究課題の推進に必要な科学的知見のみならず、糸状菌の研究分野においても重要かつ新規な知見を得ており、世界的にも科学的価値は極めて高い。また、転写制御マシナリー解明については、当該分野においても重要と認知され困難な課題であるが、これまでの研究成果から全体像のパズルが繋がってきている。また、新たな固体発酵の制御技術開発を目指した新規シグナル伝達系の創出はチャレンジングであるが、中間評価時点で系が構築されつつあり、終了時にはインパクトを与える成果となることが期待される。このように、固体培養を得意とする日本の麹菌産業が、本システムによって新たなモノ造りシステムへと発展することが期待され、生物系特定産業へ寄与することが十分期待できる。

情報発信については、最終目標が生物系特定産業に寄与する物質生産制御システムの開発であるため、特許化を優先させているようで、中間評価時点では学術論文での情報発信が少ないが、投稿中および作成中の論文が複数あるので、今後を期待したい。出願されたグルコース抑制解除によるアミラーゼ高生産菌の育種による特許と新規シグナル伝達系の開発による特許については、最終目標のバイオマス分解酵素の高生産につながり、現段階でも産業界へ貢献できるものである。

なお、本課題におけるストラテジー理解のためには、A. nidulans研究とA. oryzae研究とが行われている理由などを、もう少し分かりやすく説明することも必要である。

 

中課題別評価

中課題A「分子機能解析に基づく真菌特異的転写因子の高機能化」

(名古屋大学大学院生命農学研究科 小林 哲夫)

中課題Aのバイオマス分解酵素群の発現に関与する各転写制御因子のDNA結合配列や標的遺伝子の網羅的同定、転写制御因子間の相互作用の解析は、世界トップレベルの科学的価値が高い成果で、Aspergillus属糸状菌のみならず他の糸状菌にも利用可能な情報であり、生物系特定産業への寄与も十分期待できる。また、プロテインキナーゼの関与などの予期せぬ結果は、本課題の独創性を高め、今後の新たな研究推進に大きな意味を持つものである。必要な部分の特許出願とそれ以外の部分の論文化が期待できる。現在、複数の学術論文が作成中であるため今後に期待したい。

なお、本課題の目的からから見ると、A. nidulansにおける網羅的な解析を中課題BのA. oryzaeへ融合させるためのフロー・スキームをCre以外の因子でも提示することを検討して頂きたい。

 

中課題B「固体培養制御に向けた転写制御マシナリーの解明と新規シグナル伝達系の創出」

(東北大学大学院農学研究科 阿部 敬悦)

中課題Bは中課題Aに比べてより応用的目標を掲げて進めている。転写制御マシナリーの解明において、炭素源異化抑制システムの解明が進み、麹菌のみならず他の糸状菌への寄与も大きく、科学的価値も十分に高い。その中で、creの多重破壊で炭素源異化抑制を解除することによる酵素生産性増強は、今後の生物系特定産業の発展に寄与する成果である。また、新規シグナル伝達系の創出は、最もチャレンジングな課題であるが、シグナル伝達系の基盤が構築されており、独創性は高い。本システムにより、ガスリガンドに応答し、麹菌の固体培養を制御可能にすることは、今後の生物系特定産業に多大な寄与が期待できる成果である。

中間評価時までに、グルコース抑制解除によるアミラーゼ高生産菌の育種に係る特許出願とガス応答性の新規シグナル伝達系の開発に関する特許出願がされており評価に値する。これらの成果については、今後学術論文作成を期待する。