生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2000年度 事後評価結果

近赤外分光法を基軸とする乳牛生体情報のオンラインモニタリング手法の開発に関する基礎的研究

(農林水産省畜産試験場栄養部 田辺 忍)    

評価結果概要

全体評価

本研究は、乳牛の栄養・健康状態を適格に把握するために必要な生体情報を、近赤外分光法により無侵襲あるいはオンライン方式によってモニタリングする手法を開発するとともに、それを利用した栄養管理システムを構築することを目指して行われた。
研究の結果、下記の中課題に示すような多くの成果が得られ、研究目標の相当程度は達成したといえる。
しかしながら、当初の重要な研究目標である「無侵襲隔測測定装置」の開発や最終目標の「乳牛栄養管理システム」の構築などについては、まだ達成されていない。また、得られた成果についても、今後、多様な現場での実証試験とさらなる改良を加えて、実用的な技術・装置として完成度を高めることが必要であると考える。

中課題別評価

(1)飼料・栄養管理法と生体プロセス変動の関係解明
(農林水産省畜産試験場栄養部 田辺 忍)    

本中課題では、主として、近赤外分光法によって飼料、糞、生体液を簡易・迅速に測定する方法の検討と乳牛における種々の栄養条件と生体情報との関係を調査・解析し、適切な乳牛栄養管理システムの構築を目指して行った。
研究の結果、飼料成分などの測定法の開発はほぼ目標を達成し、また、乳牛の栄養・健康状態のモニタリングシステムの基本システムの提案とその診断結果に基づいて飼料設計を行う飼料給与改善プログラムを構築するなどの成果を挙げている。
しかしながら、栄養管理システムについては、まだ構築するまでに至っておらず、また、生体液の分析情報と栄養状態との関係解析つにいては今後さらにデータの蓄積が必要である。

(2)近赤外分光法による生体液の連続モニタリング手法の開発
(農林水産省食品総合研究所分析評価部 河野 澄夫)    

本中課題では、近赤外分光法を用いて、アットライン・オンライン方式で第一胃液及び血液の連続モニタリング手法の検討と血液、胃液等をアットライン方式で、迅速・簡便に測定できる近赤外分析装置の開発を目指して行った。
研究の結果、精密診断用として、第一胃液のオンライン方式による連続モニタリングシステムやインタラクタンス法による血液スペクトルの測定システムを開発し、現場でのアットライン診断用として、採取した牛乳・胃液・血液等を直ちに測定できる迅速・簡便な測定装置を開発するなどの成果を挙げている。
ただし、これらのシステム・装置の利用は、当面は、主として専門家による精密診断や研究用に限られるものと考えられる。

(3)生体情報の無侵襲及び連続測定装置の開発
(北海道大学農学部 伊藤 和彦)    

本中課題では、搾乳時に牛乳成分をオンライン方式で連続的に測定可能な近赤外測定装置、乳牛の乳房等に装着して無侵襲で血液成分、血流量等を測定できる装置及び現場で使用可能なポータブル型近赤外分光装置の開発等を目指して行った。
研究の結果、現在普及しつつあるロボット搾乳装置に組み込んで乳牛個体ごとの牛乳成分の測定ができる乳成分連続測定装置とポータブル型近赤外分光装置を開発した。このうち特に前者の装置は、牛乳中の体細胞数の測定も可能であり、乳牛の栄養・健康管理に大きく寄与するものと考えられる。しかしながら、血液等の無侵襲測定装置の開発は,当初の目標を未達成に終わっている。

(4)近赤外分光法によって得られる情報の解析・総合化手法の開発
(関西学院大学理学部 尾崎 幸洋)    

本中課題では、主として、近赤外スペクトルの帰属や有用な生体情報を最大限取り出す手法(二次元相関分光法による解析等)を検討するとともに、この手法を用いて測定の難解な生体成分の測定結果の判定や原因の検討等を行った。
研究の結果、近赤外スペクトル以外の各種スペクトルの解析にも利用可能な二次元相関分光法による解析用ソフトウェアを開発するとともに、本ソフトを活用して、幾つかの重要な牛乳成分について、スペクトルの持つ情報の意義を明らかにした。しかし、開発された二次元ソフトは、本プロジェクトではまだ十分活用されておらず、また、目標の情報の総合化手法の開発の課題についても今後に残されている。

(5)生体プロセス情報のフィードバックシステムの開発
(神戸大学農学部 Rumiana TENKOVA)    

本中課題では、主として、牛乳成分と他の生体情報との相互関連を解析し、牛乳スペクトルから主要な生体情報を推定する手法や近赤外分光法を用いた乳房炎診断法の開発等について検討を行った。
研究の結果、牛乳以外の生体液成分の多くが、牛乳成分のスペクトルと高い相関があり、牛乳スペクトルから乳牛の栄養・健康状況をモニタリングすることが可能であること、同スペクトルから乳房炎の診断が可能であることなどを明らかにした。特に開発した乳房炎の診断技術については、 中課題 (3)で開発した乳成分連続測定装置によっても可能であり、早期の乳房炎診断法としての応用が期待される。しかしながら、上記の得られた成果については、まだ実施例が十分でないので、今後、現場での実証試験を増やして、評価・検証を深めていく必要がある。