(東京大学大学院理学系研究科 石川 統)
評価結果概要
全体評価
研究全体は極めて順調に推移し、当初の期待以上の成果を上げることができた。ブフネラゲノムの解析及びシロアリセルラーゼ遺伝子解析に成功したことは共生系の分子機構の解明に貴重な研究成果である。本研究は分子機構の解明から利用までを展望した大きなテーマの研究で、やや手を広げすぎた感がある。本研究で得られた成果をどのように利用していくかについてはこれからの課題である。
中課題別評価
(1)昆虫内共生微生物の遺伝子産物の機能とその改変に関する研究
(東京大学大学院理学系研究科 石川 統)
アブラムシの細胞内共生細菌であるブフネラの特異タンパク質シンビオニンに関する機能の一端を解明し、さらにブフネラゲノムに関する基礎的知見を数多く得たことは高く評価される。しかし、本中課題の目標の一つであったパラトランスジェニック昆虫の開発と利用に関する部分は進展しなかった。
(2)昆虫共生系が生産する物質とその機能に関する研究
(農林水産省蚕糸・昆虫農業技術研究所 野田博明)
昆虫由来のセルラーゼについて各種昆虫での探索、局在部位、特牲、遺伝子クローニング、発現部位などを明らかした。特に、昆虫自身のシロアリセルラーゼ遺伝子をはじめて明らかにしたことは評価できる。しかし、昆虫由来と共生微生物由来双方のセルラーゼの相互関係、役割と意義の解明については不十分となっている。
(3)昆虫寄生・共生菌が宿主体内で特異的に発現する遺伝子の探索,解明,利用
(経済産業省産業技術総合研究所 深津武馬)
昆虫寄生・共生菌の探索と単離・培養については順調な進展をみせ、多数の菌類資源の集積が菌株とDNAのレベルでなされたことは評価できる。しかし、寄生菌と宿主の再感染系を用いた内部寄生特異的な発現遺伝子産物の解明については、再感染系の確立には成功したものの、特異的遺伝子産物の解析についての成果は上がっていない。