生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2000年度 事後評価結果

森林生態系における共生関係の解明と共生機能の高度利用のための基礎研究

(東京大学大学院農学生命科学研究科 鈴木 和夫)    

評価結果概要

全体評価

本研究は、森林生態系における植物、動物、微生物相互間の共生関係の解明、特に菌根菌の分子生物学的解析を行い、外生菌根菌を利用したマツ林の再生利用の基礎研究を目的とし、(1)樹木と外生菌根菌の相互認識という基礎研究と、(2)環境ストレス耐性機能の解明及び(3)マツタケなど外生菌根菌の活用技術の開発という応用的研究から構成されている。
森林生態系の共生関係の解明に関しては、いくつかの新しい解析手法を適用し、外生菌根菌の繁殖様式について解析した。その結果、胞子の散布範囲は比較的狭いにもかかわらず、遺伝子フローは広範囲に起こり、地下ジェネットは比較的変動が大きく、キノコ形成後1年以内に衰退することを明らかにした。また、ハナイグチ子実体直下の地下菌根菌集団の種構造を明らかにした。さらに外生菌根菌の実際の野外での共生機能の発揮状況を明らかにするため、富士山火山荒原における外生菌根菌の詳細調査を行い、貧栄養な一次遷移地であっても多数の菌根菌種が繁殖しており、先駆宿主樹種の生長量を高める機能を発揮していることを示した。
共生機能と環境ストレス耐性機能の解明に関しては、外生菌根形成により、養分吸収とくに燐酸吸収が促進されることを明らかにするとともに、アルミニウム過剰耐性の機構として菌根形成によって有機酸分泌が誘導されることを明らかにした。宿主の光合成と共生機能発現については、CO2濃度上昇は外生菌根菌に分配される光合成生産物の増加によって、共生機能を高める方向に作用することを明らかにした。
共生機能を利用したマツ林活用技術の開発に関しては、マツタケなどの外生菌根菌の培養技術及び人工シロの形成手法を確立して、2件の特許を出願するとともに、アカマツー菌根菌の形態形成の解析により、マツタケ菌が典型的な外生菌根菌であることを明らかにした。
研究提案がなされたときには、色々な課題を含み、全体的な統一が問題となったが、中間評価によって、課題をしぼり、樹木と共生菌の相互作用の解明、とくに、共生菌の生態と機能の基礎的研究と共生菌の応用技術としてのマツタケの問題を中心として、研究を進めた。その結果、中間評価後の研究の進展は順調であり、基礎研究、応用研究いずれも目標はほぼ達成されている。
樹木と外生菌根菌の相互認識に関し、多面的な解析を行い、実際の複雑な生態系の中で適用可能な、DNA解析による菌株の同定法、アイソトープを用いる物質移動の解明等の手法を開発し、菌根とホストとの動態を明らかにした。特に、リン、炭素を中心とした養分の移動、樹木の光合成の役割などが明らかにされた。環境ストレス耐性機能の解明の面では、樹木のアルミニウム耐性に関する菌根菌の役割の解明などの成果を挙げている。これらの成果は、特に目新しいものではないが、多様な解析手法により、フィールド実験科学に基礎的な知見を加えたという意味で高く評価される。
また、これらの応用として、マツタケ菌とマツの共生関係の研究を行い、マツタケ菌の接種と生育促進法、人工シロの誘導法を開発して特許を出願するなど、大きな進展を見せた。こうした研究の成果が、今後の菌根菌共生に関する研究をさらに発展させる途を拓くと同時に、菌根菌利用技術の実用化の可能性を示したことは評価できるが、真の実用化という観点から見れば、なお多くの問題が残されていることも事実である。
成果を多くの報文として発表しており、インパクトファクターの高いものもあることは評価してよい。