生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2000年度 事後評価結果

臓器移植医療に応用するためのブタの品種改良・増産に関する研究

(大阪大学大学院医学系研究科 白倉 良太)    

評価結果概要

全体評価

課題の大きさからやむをえない面もあるが、内容は総花的であり、基礎研究への深化と応用への志向、双方の意識が錯綜し、エネルギーの分散により、結果は散漫にになったといえる。特に、ブタの品種改良・増産という目標と成果内容との乖離が目立つ。しかも、肝心のサルでの有効性の評価は不十分であり、超急性拒絶反応が回避できるかは不明で、欧米での進歩に比して遅れをとっている。

中課題別評価

(1)異種移植の臨床応用のための基礎的研究
(大阪大学大学院医学研究科 白倉 良太)    

異種移植臓器における超急性拒絶反応を克服するための措置としてのTgブタに導入するヒト補体制御因子(DAF)遺伝子のプロモーターとしてブタMCP遺伝子プロモーターが有力であること、Nアセチルグルコサミン転移酵素III(GnT-III)遺伝子の導入によりブタの糖鎖抗原が減少するらしいことなどを明らかにし、GnT-III についてのTg ブタの心臓をカニクイザルに移植して、十分ではないがある程度の成果を得ている。また、ブタに導入すべき遺伝子を予備的に検討するための前段階としてのTg マウス作製を通じての検討から、実験用マウスや疾患モデル作製のノウハウが蓄積されたなど、基礎的知見や基本技術の集積は認められる。

(2)ブタの遺伝子工学・発生工学に関する基礎的研究
(日本ハム中央研究所 重久 保)    

本課題では、ヒトDAF 遺伝子導入ブタでヒトと同等以上のDAFタンパクの発現を確認し、これまで作製したDAFおよびGnT-III のTg ブタを交配することにより、これら両方の遺伝子をもつダブルトランスジェニックのブタの作出が進行中など、一定の進展があると評価される。しかし、精液の凍結保存については、その活性が維持できず。ブタの核移植についても成功していないなど、迫力に欠ける。

(3)人畜共通感染症おその伝達感染に関する基礎的研究
(大阪府成人病センター 瀬谷 司)    

人畜共通感染症とその伝達感染の問題については、ヒト補体制御因子の一部を改変し、これが麻疹ウイルスレセプターとなることを防ぐことに成功したが、ブタ移植細胞がヒトのウイルスでアポトーシスを誘起されることが判明し、今後の大きな問題を提起した。また、超急性拒絶反応を抑えたあとにおこると予想される各種の拒絶反応についての検討にはまったく進展がないし、ブタ臓器をヒトに移植したときの動物源感染症対策についても基礎的研究の進展はなく、具体的手段も皆無であるなど、今後に残された課題は多い。

(4)ブタにおける発生工学に関する研究
(明治大学農学部 長嶋 比呂士)    

ブタにおける核移植の基礎として、体内成熟卵の活性化方法、核移植の条件等が検討されたが、技術確立に向けての見るべき成果はない。また、トランスジェニックラインの凍結保存方法についても、具体的進展は見られない。今後の努力を期待したい。