生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2001年度 事後評価結果

スギのゲノム解析とその高度利用に関する基礎的研究

((独)森林総合研究所 長坂壽俊)    

評価結果概要

全体評価

本研究は、材木資源としてのスギの分子育種の高度化と遺伝的多様性の保全、さらには花粉アレルゲン軽減の品種改良を最終目標として掲げ、ゲノム解析とその高度利用について基礎的な面を特に強調しているが、得られた成果はインパクトのないものになっている。
日本固有の林木であるスギ、ヒノキについて、ゲノム、遺伝子研究の基盤データが整備されたことは一応評価できる。しかし、各中課題の中に部分的に努力の跡が見られなくはないが、独創性とか先進性といった面において特筆すべき点はほとんど見らず、植物科学全般のレベルから見て、本研究の成果の学術的価値を高く評価することはできない。

中課題別評価

(1)スギゲノム上の遺伝マーカーの開発と高密度基盤連鎖地図の確立
((独)森林総合研究所 津村義彦)    

スギのseedling、内樹皮、雌花などの混合cDNAライブラリーを作成し、これを基に開発したCAPSマーカーやSSRマーカーなど約500個のマーカーを11本の連鎖地図にまとめた点は、有用遺伝子の単離や連鎖マーカーの探索、林木の系統解析などを行うための基盤となるものであり評価できる。今後、他の中課題から得られるマーカーを取り込むことによって、更に精密なマップが作製されることが望ましい。

(2)スギ材質関連遺伝子のQTL解析
((独)林木育種センター 近藤禎二)    

有用形質のマッピングを行うことは重要な試みであり、スギの重要形質である材質に関するQTL解析を実施して、今後のQTL解析に必要な最低限の基礎データが得られたと思われる。ただし、現時点ではマーカーの密度もそれほど高くなく、また、データの精度が不明であるためどの程度精緻なマッピングが可能で、その結果、有用なマーカーが単離できるか判断できない。

(3)スギ花粉cDNAクローンの構造及び発現解析と多型マーカーのスクリーニング
(静岡大学農学部 向井 譲)    

中間評価前の低温、強光、UVなどのストレス応答遺伝子の検索とその応答性については新知見が得られていなく、かつ、課題全体との整合性を欠いている。中間評価後、花粉のcDNAライブラリーの184クローンの塩基配列決定や、2つの花粉アレルゲン遺伝子を解析したが、これもまた、特に興味ある成果は得られてなく、全期間にわたって十分な成果が挙がったとは云えない。

(4)スギゲノム上の遺伝子マーカーのシーケンス情報に基づく分子進化学的解析
(九州大学 舘田英典)    

スギ種内、種間の塩基配列変異パターンを自然淘汰との関係で理論的に明らかにするとともに、スギ・ヒノキ科の系統関係を葉緑体DNA配列から推定し、核遺伝子の分子進化学的解析から適応的変異候補サイトの存在を明らかにした。系統関係の解析は、スギ、ヒノキの領域では新規性があろうが、このこと自体、よく用いられている解析手法で特別のものではなく新鮮みはない。また、本中課題の研究内容は、プロジェクト全体の中で果たす役割がかなり異質な感じがする。