生物系特定産業技術研究支援センター

新技術・新分野創出のための基礎研究推進事業

2001年度 事後評価結果

ジベレリンの輸送・受容・シグナル伝達機構とその制御技術の開発に関する研究

(東京大学大学院農学生命科学研究科 山口五十麿)

評価結果概要

全体評価

本課題は植物におけるジベレリン受容体を精製してその遺伝子を解明し、シグナル伝達機構を明らかにするとともに、ジベレリンの輸送を制御することによって植物の生長を制御する技術に応用しようとしたものである。研究は3つの小課題 (1)ジベレリン結合タンパク質の精製・単離 (2)ジベレリンのシグナル伝達機構の解明 (3)抗体を用いたジベレリンの植物体内での輸送のコントロ-ル から構成されている。
(1)では、アズキからジベレリン結合タンパク質(GBP)の複数の候補を精製し、その一つの遺伝子をクロ-ン化した。しかし、GBPの同定・精製は不十分で、それなりの結果を出してはいるものの、このタンパク質が真のジベレリンのレセプタ-であるか否かについては不透明のままであり、明確な形でレセプタ-が単離されたとは言えない。
(2)では、ジベレリン処理によりmRNA量が顕著に増加する遺伝子の一つとして、アラビノガラクタンタンパク質(AGP)遺伝子に注目し、ジベレリンのシグナル伝達にAGPが重要な役割を果している可能性を示したが、まだ確実にジベレリンのシグナル伝達のメカニズムを説明できる段階には到っていない。
(3)では、輸送型ジベレリンに対する一本鎖抗体の遺伝子を作成して植物体内で発現させると、その含量が数倍に増えるが、最終的な活性型ジベレリンの含量には明瞭な影響が現れないという現象を見出した。これは、活性型ジベレリンの量を一定に保つような生合成のフィ-ドバック制御が働いていることを示唆している。
このように、基礎的な知見の積重ねと応用の可能性は一応評価できるが、いずれの小課題においても最終的な目標には達し得なかった。極めて多岐にわたる実験計画を遂行したにもかかわらず、明確な成果が少ないといわざるを得ないが、その原因は目標設定が多様でかつ高すぎたことによると思われる。